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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

あー、やっぱりシモン・ボッカネグラは素敵だ!

 さて、昨晩の“オルフェオとエウリディーチェ”の興奮も醒めやらぬまま、今日はヴェルディの名作(佳作とは言いたくない)、“シモン・ボッカネグラ”です。僕が、ヴェルディのオペラの中で一番好きなオペラ、ということは全オペラで最も好きな作品です。でも知らない方も多いでしょうね。日本では滅多に上演されませんから。それでも、最近では2014年の5月のローマ歌劇場来日公演の際に、ムーティの指揮で文化会館で上演されています。もちろん行きました!しかし、それ以外で日本で聴いたのは、大阪いずみホールでの2013年の公演だけです。あとの7回はすべて海外、ウィーン、チューリッヒ、サンフランシスコ、モデナ、MET、バルセロナそして今回のスカラ座です。で、このうち、4回のタイトルロールはレオ・ヌッチ。今回もヌッチです。ヌッチも今年76歳、まだまだ元気とは言え、聴ける時に聴いておかないと….という気持ちは強くなっています。ヌッチ自身も、先月シドニーでのリゴレットを降板した後に、「今後は海外には行かない」と弱気なことを言っているとか。(今、決まっている来日公演は大丈夫だそうです。ご安心を)そして、これはしばらく前から言っていることですが、もう、ヴェルディの父親役しか歌わないそうです。僕は、シモンの他には、ミラー、ジェルモン、ナブッコしかヌッチを聴いてないのです。フォスカリはシチリアで聴くはずが降板されてしまいました。聴きたいなぁ。

 前置きが長くなりましたが、今回の旅行の一番の目当ては、この大好きなヌッチのシモンを、これまた大好きなチョン・ミョンフンの指揮で聴くこと!指揮は期待通り、このオペラの魅力を最大限に出してくれました。序奏はやや遅めに始まり、パオロとピエトロの最初のやりとりは、不気味に静かに進んで行きます。そしてシモンが登場し、フィエスコが、“Qual cieto fato a oltraggiarmi ti traea? 「お前は私を侮辱する運命なのか?」”と歌うところから、急激に盛り上がります。ここの曲調は、「月光仮面」の主題歌に似ているなぁといつも思います。ちょっと新派みたいですね!シモンは、1857年に初演されたあとに、1881年にボイートによる改訂版で再演されていますので、ヴェルディの中期と後期の音楽がところどころに混じって見受けられます。この部分は多分中期のところでしょう。

 ミョンフンの指揮は、僕が普段聴いている、カッレガーリの指揮(Tutto Verdiに収録)に比べると、やや抑揚感が大きいという気がしましたが、そのほうが、この活劇調の作品には合っています。歌手への寄り添いかたは、見事なものでした。ローマ歌劇場来日でムーティが歌手を引っ張って行ったのとは全く違い、安心して聴いていられました。

 この公演当日、雪で外気は低音、湿気も多かったので、ヌッチの喉の調子を心配しましたが、始まってみれば絶好調! 低音から高音まで良く出ていました。特に中高音部の感情表現はますます素晴らしく、これほどのシモンを歌える歌手は、残念ながら世界に他にはいないと思います。シモン自身のモットーは “onore(名誉)“なのですが、ヌッチの声は、このオペラの間中、ずっとonoreを感じさせてくれます。ラ・トラヴィアータのジェルモンを歌う時などは、いじわるさ、やさしさ、おろおろとした感じ、そして、それらのどれだかがわからない怪しい感じを出してくれるのですが、シモンでは全く別で、「名誉」を体全体で醸し出してくれる、という感じですね。作曲家ヴェルディが自分を一番投影しているオペラでの役柄がこのシモン・ボッカネグラなのだと思います。つまり、基本的に自由であり、平等であり、因習にとらわれずに愛する人を愛し、敵も許す、そいういうところですね。

 フィエスコのドミトリー・ベロセルスキー、このところヌッチの相手役をよく務めていますが、朗々と響く低音に魅了されました。プロローグのヌッチとのやりとりで、シモンをあくまで許さないという、頑固さ、意地悪さが、良く出ていて、この二人のやりとりに釘付けになりました。3幕目、シモンが亡くなった後を締めるのも、このフィエスコの低音ですから、この役の声が良くないと最後が駄目になっちゃうんですよね。この点でも最高でした。

 そして、さらなる贅沢とも言えるのが、パオロ役のダリボール・イエニス。日本でも新国立のセビリアなどでおなじみのバリトンですが、主役も張れる実力派。このオペラ、終わりがフィエスコなら、初めはパオロが肝心なのです。最初の“Che dicesti?....(何と言った?)” 一声が、低めいっぱいに決まらないと(野球か?)全然しまらなくなってしまいます。その後、シモンが出てくるまでが、プロローグのプロローグで、パオロとピエトロの聴かせどころです。ピエトロのエルネスト・パオリネッロもスカラ座来日の時のリゴレットで、モンテローネを歌っており、今回のシモンのバリトン、バス陣は本当に贅沢でした。

 アメーリアの婚約者で、シモンの敵役でもある、ガブリエーレ・アドルノは、これも僕の大好きなファビオ・サルトリ。今まで聴いたシモン・ボッカネグラのうち4回はアドルノをサルトリで聴いています。聴くたびに体が大きくなってきていて、今はおそらく130kgくらいはあるのではと思わせる巨体。個人的にはメーリより好きですが、ビジュアルのせいでしょうか、このアドルノ役以外ではラダメスくらいで、あまり多くの役には出ていないようですね。日本に来たこともないのでは?? 声は玉をころがすような美しいリリックなテノールで、聴き応えあります。演技は期待できないですが。。。

 ちょっと物足りなかったのが、アメーリアのクラシミラ・ストヤノヴァ。出だしが緊張していた感じで、やや堅く、2幕目以降はだいぶ良くなるのですが、声としてはやや強めで、イタリアっぽさが無い感じがしました。リヒャルト・シュトラウスを得意としているようで、ちょっとこの役には合わないかなと思いました。ここ数年は、ラッキーなことにアメーリアはバルバラ・フリットリで2回聴いてしまっているのも、この辛口評価につながったと思います。

 演出はベルリン歌劇場と共同のものですが、やや暗くて濃いグレーの壁ばかり出て来て単調な感じがしました。しかし、音楽と歌唱を邪魔しないのは良かったです。シモンの演出では前述のチュ—リッヒ歌劇場のデルモナコの演出か2014 年のパルマのガリオーネの演出が、色が美しくて好きです。やはり、舞台のジェノヴァのアドリア海のイメージが少し出て欲しいと思うのです。今回の演出ではプロローグが船着き場になってはいるのですが、あまりにも暗くて、プッチーニの“外套”の船着き場みたいな感じでした。

 この、シモン・ボッカネグラは実在の人物で、14世紀のジェノヴァ共和国の総統で、オペラの物語も歴史に則しており、ワインに毒を盛られて暗殺されています。彼の生家と墓所はジェノヴァにあるとのことで、ミラノから電車で2時間弱なので、行ってみようかとも思ったのですが、なにせ、雪で零下の気温の中を歩き回る気にならないので、やめました。

 それにしても、この旅の3つの公演、本当に満足なものでした。こんなに高水準の公演が1週間に3つも見られるというのは、欧州に年に1-2度来るくらいでは、なかなかありません。この日のカーテンコールではヌッチさん、上機嫌でみんなを引っ張って、拍手に応えていました。最前列で見ていたので、その様子が良くわかったのですが、こちらが興奮しすぎて、写真を撮るのをうっかり忘れてしまいました。残念!

 あさって日本に帰り、ホフマン物語です。あ、その前にバッティストーニと小曽根真のコンサートもある!楽しみです。

Conductor Myung-Whun Chung
Staging Federico Tiezzi
Sets Pier Paolo Bisleri
Costumes Giovanna Buzzi
Lights Marco Filibeck
CAST
Simone Leo Nucci
Amelia Krassimira Stoyanova
Jacopo Fiesco Dmitri Belosselskiy
Gabriele Adorno Fabio Sartori
Paolo Albiani Dalibor Jenis
Pietro Ernesto Panariello


 

 
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