プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

絶品の「ノルマ」

 この3月末で、大学院のほうが退任になるので、授業もゼミもなくなって、だいぶ暇になるかと思っていたのですが、貧乏性なもので、空いた時間にどんどん仕事を突っ込んだり、旅行をしたりしていたら、何だか忙しくなってしまいました。そんなわけで、今まですべての観劇をブログにしていたのですが、2-3月で2つほどコンサートが漏れてしまっています。なんとか後でおっつけたいと思っていますが、とりあえず、オペラは外せないので、昨日、オーチャードホールで聴いた、二期会の「ノルマ」の感想をアップします。

 まず、今日一番に書きたいのが「指揮」です。素晴らしかったです。リッカルド・フリッツァ、新国立の2009年のオテロは、あまり印象に残らなかったのですが、昨年の「ラ・トラヴィアータ」の指揮は望外に(失礼!)に良かったのです。ピアニシモが美しく、品があって、しかし退屈でない、「静かなトラヴィアータ」でした。昨日のノルマはまさしく絶品!序曲が始まって「あっ!」と思ったのは、昨今、ノルマの序曲は古楽っぽくメリハリを付けて、楽器の響きを短くして聞かせるのがデファクト・スタンダードみたいになっているのに、フリッツァの指揮は、現代楽器をふくよかに、のびやかに鳴らします。それでいて、だぶついたところは全くなく、色に溢れたように、楽器ひとつひとつが聞き取れるような指揮でした。METでのリッツィ、一昨年のデヴィーアのノルマの時のランツィロッタの指揮も、ピリオド楽器風で、それはそれで素晴らしかったのですが、フリッツァの古き良き「ノルマ」は素晴らしい。彼は、「ラ・トラヴィアータ」の時は、1950−60年代的な演奏を排除すると言うポリシーで指揮に臨んでいましたが、ノルマでは逆ですね。けっこうへそ曲がりなのではないかとも思います。

 彼の指揮は、ノルマでも全体に低音量です。歌手もそれに合わせています。しかし、ここぞというところでは、楽器をピックアップするように浮きだたせて、音波を作ります。それもとても品格のある音波を!2幕目の序奏はずっとピアニシモが続き、ノルマの「眠っているとも」に続くのですが、ここの緊迫感が幕全体への期待を膨らませます。そして、3幕のノルマとポリオーネの2重唱「貴方は私の手中に」の序奏では、もう涙がウルウルです。ベッリーニの美しいメロディを、これだけ美しく聴かせてくれた指揮は、ノルマも6回くらい聴いていますが、滅多になかったです。僕としては、この日のMVPはマエストロ・フリッツァに捧げたいですね。多分、僕自身の好みとも合っているのでしょう。

 そして、歌手も本当に良かったです。大隅智佳子に代わって、2日続けてタイトルロールを歌った大村博美、ノルマの心情を細かくにじみ出させるような、美しい歌唱でした。”Casta Diva”はやや破綻を怖れて、8割方のパワーだったような気がしますが、静かな指揮とぴったり合っていました。ポリオーネの樋口達哉、やっと彼の持ち味が出せる役が来ましたね。ルサルカの王子じゃないでしょう!得意の高音も良かったですが、中音での感情表現が豊かで聴き応えありました。アダルジーザの富岡明子も、とても良かったのですが、役にはやや立派すぎる歌唱だったような気がします。声質がレッジェロ、リリコという感じではないのでしかたがないのですが、もう少しノルマに合わせて、彼女よりだいぶ歳も格も下だというのが、感じられる歌い方をして欲しかったです。ノルマとの二重唱や掛け合いの時に、このアンバランスがちょっと気になりました。オロヴェーゾの狩野賢一もがんばっていました。妻屋さんの次の世代として期待できますね。そして、特筆すべきなのは、二期会合唱団。少し荒いところがあるのがドルイド教徒らしくて、ノルマの合唱としては素晴らしかったです。聴き応えありました。

 セミステージ方式ということで、ステージに乗ったオケの後ろ、合唱団の前に台を設けて、そこである程度演技もつけて歌うという方式、評価が分かれそうですが、僕はとても良かったと思います。ここ数年、演奏会形式、セミステージ形式の公演を聴く機会が増えていますが、いずみホールのシモン・ボッカネグラや、テアトロ・レアル(マドリッド)でのルイーザ・ミラーなど、動きの付いた演奏会形式は、引き込まれ度が違います。藤沢市民オペラの時に、セミラーミデ役の安藤赴美子さんが、両手でこぶしを挙げて歌っているのを見ただけで、グッと来ましたから、やはりただ突っ立っているよりは、何らかの演技が少しついただけでも印象は変わります。今回はノルマはけっこう衣装も替えていましたね。

 これだけ素晴らしい内容で、2階の良い席で¥6,000−。Value for moneyですねー。残念だったのは、けっこう空いている席があったこと。二期会には、もっと宣伝してほしいですね。ポスターも無いんですよ。せっかくの箱がもったいない。

 それにしても、十二分に満足なノルマでした。昨日からずっとCD聴き返しています。(バルトリ、アントニーニ盤)

指揮: リッカルド・フリッツァ

演出: 菊池裕美子
映像: 栗山聡之
照明: 大島祐夫
合唱指揮: 佐藤 宏
舞台監督: 幸泉浩司

ポリオーネ:樋口達哉
オロヴェーゾ:狩野賢一
ノルマ:大村博美
アダルジーザ:富岡明子
クロティルデ:大賀真理子
フラーヴィオ:新海康仁

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