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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

三部作 東京二期会

6月のバーリ歌劇場来日“イル・トロヴァトーレ”以来、シーズンオフを挟んで、久しぶりのオペラです。“三部作”は僕の大好きな作品で、かなり楽しみにしていました。“外套”、“修道女アンジェリカ”、“ジャンニ・スキッキ”の、それぞれ1時間程度、一幕物のオペラ作品が、この順序で上演されるものですが、 “ジャンニ・スキッキ”は、独立した作品として上演されることも多い作品です。実際、僕も、通しで三作品を見たのは、2008年のロサンジェルス・オペラでの一回だけです。

僕は、プッチーニの作品にはあまり思い入れがありません。特に「ラ・ボエーム」などは、最も苦手とするオペラ。「お涙頂戴」的なところが苦手というのもありますが、多くの作品で、主人公の恋愛や、悩みが幕が上がってから不自然に急に始まるというところに、「物語が悲劇を演出する“為”にこさえられている。」という感じがしてしまうのです。その点では話の筋の流れが開演前からある「トスカ」は好きなほうですね。それで、この三部作は、すべてが短い作品ということもあり、オペラの開演前に、もう既にドラマが始まっています。特に“外套”、“修道女アンジェリカ”では、かなり過酷な運命の流れがあり、この流れに終止符を打つ部分がオペラになっているのです。

今回の公演で、特筆すべきなのは、ミキエレットの演出でしょう。ミキエレットを初めてみたのは、新国立のキャンプ場を舞台とした“コジ・ファン・トゥッテ”で、この演出には、それほど感銘を受けませんでしたが、その次に2015年にアムステルダムで見た美術館の中で演じられる“ランスへの旅”は、本当に心動かされました。そして、この“三部作”。ミキエレットの演出に魔法をかけられた気分です。“外套”は、波止場のコンテナ置き場を舞台にし、次の“修道女アンジェリカ”は、そのコンテナが開いて、修道院の洗濯場と独房になります。そして、休憩後の“ジャンニ・スキッキ”では、そのコンテナがフィレンツェの館に変わるのですが、コンテナが舞台上斜めに置かれているので、舞台上手側に座っている観客からは、コンテナの間の路地になっているようなところが見られると思いますが、僕が座った下手側からだとコンテナの間は、ほとんど見えません。証明に照らされた影で歌手の動きを推測するのみ。また、コンテナの上の部分が邪魔をして、3階のL、R前方の観客からはコンテナの内部や、その中で歌う歌手の頭は見えません。このように、一見、舞台装置は不親切なように思えますが、オペラが進んで行くと、まさに実際の現場をのぞき見ているような現実感が生まれて来ます。舞台美術のヴェリズモと言うべき方法でしょうか?とても刺激的でした。そして、そのコンテナが“ジャンニ・スキッキ”の最後には、すべて閉じられて、“外套”の最初の場面に戻ります。この三部作がもともと、ダンテの「神曲」から作られているとプログラムにも説明がありますが、神曲が表すあの世には、「地獄」、「煉獄」、「天国」があり、オペラの3つの作品もそれに対応していると思うのです。ですので、「天国」に見えた“ジャンニ・スキッキ”が実際には「地獄」であり、「外套」と同じだという見方に最後に戻るのをコンテナで見せるという鋭い演出には、今風にいうと「ヤバイ!」という感じ。

その他にも、“外套”が終わって、横たわったジョルジェッタが、そのまま髪を切られて、アンジェリカとして修道院に送り込まれ、次のオペラにつながるところも秀逸です。アンジェリカの抱えた罪が、“外套”での娼婦性の罪と相まって、余計に強く印象に残ります。そして、ミケーレが落とした子供の靴をアンジェリカが拾うところも同じように、2つのオペラをつなげる大きなカギになります。

この演出によって、緻密な演技を求められた歌手陣も素晴らしかったです。“外套”のミケーレと、“ジャンニ・スキッキ”のタイトルロールを演じた上江隼人は、持ち前の中高音域の美しさに、最近は低音域の凄みを加え、しかし、明確なイタリア語の発音で、舞台を締めます。ジョルジェッタとアンジェリカの北原瑠美も、2つのオペラの心理劇的な面を、強く感じさせる歌唱と演技が素晴らしい。そして、今回、驚いたのは、どちらかとリリックな印象のあった、樋口達哉が“外套”のルイージでヴェリズモ的な強い声を聴かせてくれたことです。アンジェリカに対する公爵夫人を歌った中島郁子も、その意地悪い感じと、後半、それを後悔するような歌唱と演技に引き込まれました。通常は、アンジェリカの子供は本当に亡くなっていて、アンジェリカが服毒自殺をすると、天使の歌声と共に光りの中に現れるのですが、今回の演出では、実は亡くなってはいなかったという、やりきれない結末になっています。

三部作の音楽では、何と言っても「外套」の序奏、そのあと何度も繰り返される、暗い埠頭に寄せる波のような弦楽の調べが好きですが、ベルトラン・ド・ビリーの指揮は、過度にヴェリズモっぽく強弱を付けるのではなく、淡々と、しかし実に美しい音楽を構成していました。三作を統一するような、インテンポな音楽作りで、これも、演出ととても合っていました。

日本で、これだけの水準の高い三部作を、それもすこぶるリーズナブルなチケットプライスで聴けるというのは何と幸せなことでしょうか! 今年は、海外でもう一回“三部作”を聴けるかもしれません。

指揮: ベルトラン・ド・ビリー
演出: ダミアーノ・ミキエレット
演出補: エレオノーラ・グラヴァニョーラ
装置: パオロ・ファンティン
衣裳: カルラ・テーティ
照明: アレッサンドロ・カルレッティ
合唱指揮: 冨平恭平
演出助手: 菊池裕美子
舞台監督: 村田健輔
公演監督: 牧川修一
公演監督補: 大野徹也

<キャスト>
『外套』
ミケーレ : 上江隼人
ジョルジェッタ: 北原瑠美
ルイージ : 樋口達哉
フルーゴラ: 塩崎めぐみ
タルパ : 清水那由太
ティンカ : 児玉和弘
恋人たち : 新垣有希子
     新海康仁
流しの唄うたい: 高田正人

『修道女アンジェリカ』
アンジェリカ:北原瑠美
公爵夫人 : 中島郁子
修道院長 : 塩崎めぐみ
修道女長 : 西館 望
修練女長 : 谷口睦美
ジェノヴィエッファ:新垣有希子
看護係主導女: 池端 歩
修練女 オスミーナ:全 詠玉
労働修道女I ドルチーナ:栄 千賀
托鉢係修道女I :小松崎 綾
托鉢係修道女II: 梶田真未
労働修道女II: 成田伊美

『ジャンニ・スキッキ』
ジャンニ・スキッキ:上江隼人
ラウレッタ: 新垣有希子
ツィータ : 中島郁子
リヌッチョ: 新海康仁
ゲラルド : 児玉和弘
ネッラ : 小松崎 綾
ベット : 大川 博
シモーネ : 清水那由太
マルコ :  小林大祐
チェスカ : 塩崎めぐみ
スピネロッチョ: 倉本晋児
公証人アマンティオ:香月 健
ピネッリーノ: 湯澤直幹
グッチョ :寺西一真

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、NHK東京児童合唱団
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