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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ラ・トラヴィアータ 藤沢市民オペラ

 しばらくブログをご無沙汰してしまいました。その間にコンサートに数回行きましたが、時間もたってしまったので、割愛致します。

 それで、昨日は1ヶ月ぶりのオペラ、大好きなトラヴィアータです。中村恵理のヴィオレッタは、彼女のリサイタルやヴェルディ協会のイベントで、何曲かは聴いていて、それだけでも、ものすごく魅力的でしたしたので、全幕で聴くのを本当に楽しみにしていました。

 この日の彼女は、本当に素晴らしかったです。どちらかというと「力強い」ヴィオレッタなのですが、1幕の最初から、病気であることがわかるような歌い方。ちょっと息があがっているような雰囲気を醸し出しているのです。ヴィオレッタの人格と体調に完全にシンクロしているのですね。ヌッチは、舞台でどんな事故があっても、役柄から抜けませんが、そのような鬼気迫るものを感じる歌唱と演技でした。

 3幕目の最初の、“Dammi d’acqua un sorso”(お水を頂戴、ひとくち)というところも、はっきりした強い口調で歌うのですが、そこには、もう死の予感がたくさんこもっています。プログラムの解説にもありましたが、最期の場面で、”Ah1 io ritorno a viviere..” “Oh giola” (私はもう一度生きるの、ああ、嬉しい)というセリフが、これほどぴったり合うヴィオレッタは、トラヴィアータをかれこれ15回は舞台で聴いていますが、中村恵理をおいて他にはありません。ナタリー・デセイのヴィオレッタの最期の場面も、素晴らしいのですが、そのセリフとは裏腹に、「もう一度生きる」という感じはしません。この感じがするのは、あとはデヴィーアでしょうか?

 ですので、この日の公園、僕は、完全に中村恵理に“持って行かれた”という感じでした。中村の歌唱があまりに良すぎて、他の歌手が色あせて聞こえるという感じ。その中で、良かったのは、今まで何度聞いてもあまり感動しなかった、須藤慎吾のジェルモンでした。実直な田舎の紳士という感じを、声に無理なく自然に出していました。2幕目でちょっとベルカントしていたのもおもしろかったです。ただ、2幕目最終部の「プロヴァンスの海と土」の後、カヴァレッタを省略してしまったのは、とても残念。 “Non non udrai rimproveri, copriam d’oblio il pasato” (いいやお前に何も小言は言うまい。過去は忘れてしまおう。”と始まる、やさしいメロディで、ジェルモンが息子への愛情をオロオロしながら歌うこの部分が無いと、2幕目、3幕目での親子関係がはっきりとわからなくなってしまうのです。田舎の富豪の息子であるアルフレードが、いかに愛情を注がれて、言い換えれば甘やかされて育ってきたかというのがわかる部分です。これは1幕目2場のパリ郊外のヴィオレッタの館で、“O mio rimorso!”(おお、わが後悔)と歌うアルフレードのカヴァレッタとも呼応しています。この部分も良く省略されてしまうのですが、今回、こちらは残されていました。アルフレードは、1000ルイという大金をなんとかするためにパリに向かうのですが、アンニーナに言われるまでもなく、二人で働きもせずに、そのような豪華な暮らしをするのに、お金がどこから来ているか、考えもしないというのは、あまりにも馬鹿息子過ぎるのではないかと思うのです。その馬鹿息子ぶりが、良い意味でも悪い意味でもアルフレードの魅力なのですが、その部分を裏付けるのが、ジェルモンの2幕目最後のカヴァレッタ。やっぱり入れて欲しかったですね。ちなみに、実話でも原作の作者デュマ・フィスは、ヴィオレッタこと、マリー・デュプレシとの暮らしを維持するための金を父デュマに借りに行くと断られますが、その実、銀行での借金の保証人にはなっているのです。

 このオペラは、実話、原作、戯曲、バレエと色々な表現があるので、それを比較するのもとてもおもしろいです。

 アルフレードを歌った笛田博昭、とても良い声をしていましたし、彼の声量は中村に負けない強さを見せていましたが、ややヴェリズモっぽい、そして音程がところどころぶれることがありました。脇役ですが、男爵役の久保田真澄、アンニーナの牧野真由美、フローラの向野由美子はとても良かったです。この脇役には豪華すぎる配役と言って良いと思いますが、公演全体がグッと締まりました。

 園田隆一郎の指揮は、丁寧で、柔らかく、ピチカートでカラフルにするところなど、彼らしさが出ていましたが、この日の主役となった、中村恵理の強さにやや負けるところがあった気がします。

 岩田宗達の演出は、2013年の新国立での藤原公園、デヴィーア主演の時の演出を元にしていると思われます。あの時3幕目にしか登場しなかった、大きな斜めの台を一幕目から登場させ、使い回していましたが、限られた装置しかない舞台では、とても効果的でした。

 この公演、今年も一日限りなのですが、できれば2日続けて聴きたいものです。とにかく中村恵理に圧倒された満足な公演でした。

指揮:園田隆一郎
演出:岩田達宗
ヴィオレッタ 中村 恵理
アルフレード 笛田 博昭
ジェルモン 須藤 慎吾
フローラ 向野 由美子
ガストン子爵 井出 司
ドビニー侯爵 三浦 克次
ドゥフォール男爵 久保田 真澄
医師グランヴィル 東原 貞彦
アンニーナ 牧野 真由美
管弦楽 テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
合唱 藤原歌劇団合唱部

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