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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ラ・トラヴィアータ@MET

 12月のあたまに1週間、ブエノスアイレスに滞在し、温暖な気候を満喫して、日光を浴びて日焼けした後に、いきなり零下2度のニューヨークに入るというのはけっこう気合いを入れないと、この歳になるとぎっくり腰になったりする可能性が高いのです。なので、この区間の移動の12時間だけは、ぜいたくをしてビジネスクラスを取っていたのですが、UAの夜行便が機材故障のためにキャンセル!いきなり、アルゼンチン航空のエコノミークラスになってしまいました。このシートの狭いこと。今時、エコノミークラスとは言え、こんな狭いシートがあるのかと思うようなものでしたが、なんとかぎっくり腰にもならずJFKに到着しました。今年は3月のミラノ、パリでも零下の日々を体験していたので、ダウンコートなど、装備は充分。しかし、それでも寒いものは寒いですね。それにしても、今年は3回しか海外へ出ていないのに、そのうち2回で、帰りの便がキャンセルになるというのは、確率66%。ロスバゲはなかったですが、けっこう呪われているのではないかと思ってしまいます。

 さて、ブエノスアイレスのコロン劇場は「ついで」に行ったのですが、NYのMETのほうは狙い撃ちです。2日間で3演目です。

 まず、最初はマイケル・マイヤーの新演出、ディアゴ・フローレスのMETでの初役で話題の、“ラ・トラヴィアータ”、なんと言ってもこれです。もちろん、フリットリがノルマを歌うのがどうか?というのと同じように、フローレスがアルフレードを歌うのには異論も多くあるのは事実ですが、僕はYouTubeで5年くらい前に、フローレスが2幕1場のカバレッタを歌っているのを聴いた時から、いつかは全幕で聴きたいものだと思っていました。

2012年モスクワでの “O mio rimoroso”
https://www.youtube.com/watch?v=LfZqrgvDdYo

ちなみに、こちらは今回の公演の”O mio rimoroso”
https://www.metopera.org/season/2018-19-season/la-traviata/

 結論的には、やっぱり、フローレス「良かった」ですね。成熟したアルフレード、若さをかなぐり出していない、馬鹿すぎない、しかし、情熱的で知的でさえあるアルフレードを堪能しました。2幕目の上記の “O mio rimoroso や、冒頭の“Lunge da lei per me-“のカバレッタでの燃えるような感情を、前にも言いましたが、ポルシェの完璧な6気筒水平対向エンジンのような声に乗せて歌われると、もう、グーッときてしまいます。彼のロッシーニは生で聴いたことはないのですが、ロッシーニの声としてはやや重くなりすぎてきているとのことを聞きます。しかし、アルフレードには今やぴったりだと思います。一幕目のヴィオレッタの幻想で響く遠くの声でさえ、こちらの感情を大きく揺り動かします。3幕目の「パリを離れて」のところで、アタマを一小節早く出てしまい、歌い直したのがちょっと珍しかったですが、全体に感情の歌への流し込みが素晴らしい。これは、タイトルロールのダムラウも同様です。昨年の11月に夫君のテステと来日した時に、一部は歌ってくれて、「凄いなぁ」と思ったのですが、全幕聴くと、彼女の余裕のある歌い方が、実にヴィオレッタの優雅さを出していることに気づきます。1幕目のアリアでも、充分に余裕があり、この分、感情表現に力を割いているように思えます。ともすれば、このような歌手は、感情表現がオーバーになりすぎるのですが、ここはとてもうまく押さえてあります。トラヴィアータの場合、ピークを2幕1場のヴィオレッタとアルフレードの別れ”Amami Alfredo”のところに持って来る演出、あるいは3幕目の”E tardi!(遅いわ)“から「道を踏み外した女」のところに持って来るパターン、そして、最後の”死“に持って来るパターンがあると思うのですが、今回の公演はクラシックな2幕1場のピークバージョンではないかと思います。それだけに2幕目の盛り上がり方は素晴らしかったです。期待以上だったのは、ジェルモン役のクイン・ケルシー。この人は今ひとつ声の奥行きに欠ける印象があったのですが、この日は素晴らしかったですね。ただ、正直ジェルモンは「プロヴァンスの海と土」が良ければ、すべて良しという感じはありますけども。

 指揮のヤニック・ネゼ・セガン、ついに、METの音楽監督になりましたが、レヴァインと比べて、音作りがおとなしいという感じがします。だから、ドン・カルロなどだとちょっと物足りないのですが、今日のトラヴィアータは良かったと思います。クラリネットを積極的に使って、主音節を浮き出させていました。基本的には、超一流の歌手に気持ち良く歌ってもらおうという指揮でした。

 意外だったのが、マイヤーの演出。ラスベガスバージョンのリゴレットのようになるのではという怖れと期待を持っていったのですが、しごくシンプル、クラシカルでした。全幕で、ずっとベッドを舞台中央に置いていたのは、ヴィオレッタの死を、デッカー演出の時の時計やグランヴィル医師のように、逃げられない場所と意味づけていたのでしょうか? それとも、序曲の時に既に、死の場面を出していましたので、その後の全幕はすべて回想だったということでしょうか?そこらへん、もう少し明確にしたほうがおもしろかったと思います。また、コンビチュニーのように、アルフレードの妹は2幕目、3幕目でジェルモンに連れられて登場するのもおもしろいのですが、その意味するところが、ジェルモンの画策なのか、ヴィオレッタの老いと死に対する、「若さ」の象徴なのか、いずれにしても不明瞭なところが気になりました。また、脇役が今ひとつでしたね。特に、フローラのクリスティン・シャヴェスがしまりませんでした。

 色々と言いましたが、公演としては大満足でした。僕の好きなカヴァレッタもカットされませんでしたし。ただ、今年3月にスカラ座で聴いた“オルフェオとエウリディーチェ”でのフローレスとどちらがもう一度聴きたいかというと、オルフェオですね。以前に、カウフマンでアルフレードを聴いたことがありますが、それよりも、アンドレア・シェニエで聴いた時のほうが良かったのと同じようなことです。アルフレードって、そんな役なのかもしれません。

CONDUCTOR
Yannick Nézet-Séguin
PRODUCTION
Michael Mayer

Violetta
Diana Damrau
Alfredo
Juan Diego Flórez
Germont
Quinn Kelsey





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