プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

バッティストーニ指揮レクイエム@新宿文化センター

 いや、すごいものを聴いてしまった、というのが本音です。

 正直なところ、今回はあまり期待していませんでした。バッティの指揮でも良い時もあるし、そうでない時もある。もちろん、ヴェルレクはバッティにはぴったりだとは思っていましたが、なにしろ、この日は、何と言っても合唱団が、この日一日のために一般公募をした合唱団ですからねー、第九じゃないんだからなぁ、と思っていました。東フィルの首席指揮者なのだから、東フィルで藤原や新国立の合唱団を使って講演すれば良いのになぁと思いつつ会場に向かいました。

 結論:たしかに合唱は素人ぽかったです。ですが、バッティストーニとのこの一日だけの出会いに、全員が覚醒していました。第一曲の”レクイエム“のピアニシモの入りから、美しい!去年の7月から練習を重ねて来ただけありました。4曲目の”サンクトゥス/聖なるかな“の4部2群による合唱も素晴らしかったです。バッティがゲネプロの時に、合唱が最終曲の”リベラ・メ/救い給え”を歌っている時の逸話を、音楽評論家でこのゲネプロをに行かれたK氏がフェイスブックにこう書いています。バッティは合唱団にこう言ったそうです。「みなさん、微笑みながら歌っていますが、みなさんが楽しんでいるのはいいことだし、よくわかるのですが、笑、ここは最後の審判の光景で、地獄の口が開くような音楽なのですから、それをイメージして歌って欲しいのです。僕は必ずしも天国や地獄を信じているわけではないのですが、この曲を演奏するときには地獄を信じてやっています」。
この言葉の後で変わりましたね、合唱。(原文のまま)

 こういう、オケや合唱団の巻き込み方が凄いですね。東フィルでも、短時間でオケがバッティの音になってしまうんだそうです。

 ですので、この日は、バッティが指揮で、オケと合唱をグィグィと引っ張って行きました。彼の指揮棒は切れるナイフのように、空間と音を切り裂きます。「怒りの日」のテーマの炸裂感は、前に聴いたルイゾッティやCDで良く聴いている、ライナーやムーティ、カラヤンよりも、もっと鋭く強く、緊張感がありました。

 歌手も素晴らしかったです。ソプラノの安藤赴美子さん、「怒りの日、それは世界が灰燼に帰す日です」という言葉を、地獄の縁に手がかかって叫んでいるようでした。リベラ・メのソロ凄かったです。ルイゾッティの時のソプラノ、アルテータがそうだったのですが、ここは体全体を使ってくれて空気をふるわせるような歌声が会場を支配しました。そして、メゾの山下牧子さん、声が暖まってくるに連れて、低音から高音まで良く響き、深みのある歌を聴かせてくれました。バスの妻屋秀和さんは、もう言うことなし。テノールの村上敏明さんは、小原啓楼さんがインフルエンザのために、当日の朝、代役を依頼されたとのこと!それでも、素晴らしかったです。オペラだとやや窮屈に感じる彼の声が、レクイエムでは、宗教音楽らしい神々しさに響いて感激しました。
  
 僕自身、ベルディの26作のオペラに、ひとつ番外でくっついている、このレクイエム、何度聞いても今ひとつ入り込めなかったのですが、この日、初めて「わかった」ような気がしました。バッティストーニは今年、日本で「オテロ」も振ります。それと「春の祭典」も、、楽しみですね。

指揮:アンドレア・バッティストーニ(東京フィルハーモニー交響楽団首席指揮者)
独唱:安藤赴美子(ソプラノ) 山下牧子(メゾソプラノ) 村上敏明(テノール) 妻屋秀和(バス)
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新宿文化センター合唱団(合唱指導:山神健志)

 
 

ブラームス交響曲第一番、タンホイザー序曲他、東フィル定期公演

1月は、大学院の授業やゼミに加えて、卒論や課題のチェックや採点があって、なかなか観劇に行けないのです。新国立のカルメンも当日券で行こうと思いつつ、結局断念。その分、2月は5-6公演行くつもりです。

 さて、この日は、もう生活の一部になってきた、東京フィルハーモニーの定期公演でした。定期会員になって、ほんとに良かったと思います。毎回、同じシートで音楽を聴けるというのもとても贅沢。しかも一枚づつ買うチケットよりも3割ほど安いし。。。

この日は、東フィルひさびさ(だと思いますが?)に佐渡裕の指揮でした。この日の佐渡の指揮は実に充実していて、余裕があり、オケとの一体感が素晴らしかったと思います。タンホイザーの序曲も良かったのですが、僕の席(1階最前方右側)からだと、ホルンよりも弦の音が大きく聞こえてしまい、オペラの時にピットからの音を1階中央や2階から聞いた時の感じと随分違います。ちょっとロッシーニっぽいワーグナーに聞こえてしまうのです。ホルンは出だしが少し安定しませんでしたが、その後は素晴らしくろうろうと響いてくれました。ひさびさにタンホイザー序曲聴きましたが、いいですね。曲としては、マイスタージンガーに似ている部分が多いと思いますが、時代的に前に作られたタンホイザーのほうが成熟している感じがします。序曲だけだとものたりないですが、今年は5月にミュンヘンに赴き、ペトレンコの指揮、フォークトのタイトルロールで聴けるので、楽しみです。

 そして、次の曲はピアソラの小さな協奏曲。洒落た構成ですね。これが良かった!御喜美江の演奏は、オリジナルのバンドネオンではなくてアコーディオンでしたが、曲のタイトルのアンデス山脈の高峰”アコンカグア”に登る道を歩くように、冷たい風や霧を感じるような、不思議で素晴らしい音の体験をしました。ピアソラは昨今、世界でブームで、Jazzとクラシックのコラボレーションでも良く演奏されています。僕もbsの鈴木良雄のカルテットとクラシックのコントラバスの演奏や、ヨーヨーマの演奏を聴いたことがありますが、アコーディオンは初めてでした。ソロアンコールはスカルラッティのハ長調ソナタ。僕はスカルラッティ大好きでだいぶ聴いているんですが、この曲がスカルラッティとは知りませんでした。不勉強。。軽いタッチで古典的なバロックをちょっとモダンに仕立てていました。良かったなぁ。

 それで、メインはブラームスの交響曲第一番、昨年末に、パーヴォ・ヤルヴィ指揮のドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団で聴きましたが、ずいぶんと違うものです。ヤルヴィの指揮は、軽快で軽く、今風に始まって、第4楽章でだんだんと厚くなって来たのですが、佐渡の指揮は、最初からグィッ、グイッとひっぱて行かれます。それでも、僕の持っている佐渡のイメージからすると軽いかもしれません。2楽章、3楽章とテンポが上がって行きますが、過度に聴衆を刺激するような大げさなところがなく、音楽に身をゆだねていられる感じです。そして、なじみのある4楽章のアダージョ。テンポを早くしたり遅くしたり、自在にオケをあやつります。次第に大きなうねりになってきます。佐渡の指揮振りは、以前にくらべて動きも小さくなったようで、全体に引き締まった感じがします。

 いや、良い演奏会でした。2月の定期公演のプレトニョフの火の鳥も楽しみです。

ワーグナー/歌劇『タンホイザー』序曲(ドレスデン版)
ピアソラ/バンドネオン協奏曲「アコンカグア」
ブラームス/交響曲第1番ハ短調

指揮:佐渡裕

ニューイヤー・コンサート2017@サントリーホール

 もう新年恒例となった、ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラの来日公演によるニューイヤー・コンサートに今年も行ってきました。このオケは、毎年ウィーンでは、コンツェルトハウスでニューイヤーコンサートをやっている実力派で、聴き応えあります。1月7日から12日までの一週間で、西宮、横須賀で一回づつ、東京で二回のコンサートをしています。クラシックなウィーンスタイルのヴァイオリンによる指揮振りで、身振り手振りも華やかなヴィリー・ビュッヒラーがリーダーです。

 今年はシュトラウス兄弟の三男坊エドゥアルト・シュトラウスのポルカが3曲はいって、テンポも良かったです。会場には着物姿の人もちらほらいます。横須賀で聴くという手もあったのですが、やはりこの雰囲気はサントリーホールですよね。アンコール4曲入って、全17曲。途中の鍛冶屋のポルカや、速達郵便のポルカでは、芸達者な団員がユーモアたっぷりの「演出」を入れます。

 実は、毎年来ているこの公演、主催のジャパン・アーツの会員招待です。で、もう一枚を購入して夫婦で来ています。これだけでもジャパン・アーツの会員になる価値があるというもの。。

新年にはお勧めの公演です。

宝のワルツ Op.418:ヨハン・シュトラウスⅡ世
ポルカ・マズルカ『心と心を通わせて』 Op.27:エドゥアルト・シュトラウス
喜歌劇『チャルダーシュの女王』より"ハイア、山こそわが心の故郷":エメリッヒ・カールマン
ポルカ・フランセーズ「鍛冶屋」 Op.269:ヨーゼフ・シュトラウス
ワルツ「美しく青きドナウ」 Op.314:ヨハン・シュトラウスⅡ世
トリッチ・トリッチ・ポルカ Op.214:ヨハン・シュトラウスⅡ世

アンコール
ウィーンわが夢の街 :ズィーツィンスキー
ピチカート・ポルカ:ヨハン・シュトラウスⅡ世
ポルカ・シュネル「速達郵便で」:エドゥアルト・シュトラウス
ラデツキー行進曲:ヨハン・シュトラウスⅠ世



パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団

 11月27日、よこはまみなとみらいホールでの公演に行ってきました。狙いは、ヤルヴィの指揮で、今やベルリンフィルのコンマスになった樫本大進のベートーヴェンヴァイオリンソナタを聴こうというもの。樫本さんのヴァイオリンは、実に艶があって美しい音です。特に高音のピアニシモは天国から聞こえてくるよう。ヤルヴィの指揮は、ヴァイオリンを引っ張るというよりは、寄り添うようにやさしく響きます。

 これに先だって、シューマンの歌劇「ゲノフェーファ」の序曲がありました。シューマンのオペラなんてあったの?という感じですが、この序曲は独立して良く演奏されているようです。8分ほどの曲ですが、今回のコンサートの序曲のようになって、軽快な印象でした。

 さて、そして久々に“ブラいち”! 軽快なテンポで展開されていきます。“速めで軽快”というのは今の指揮の流行か?でも”遅めで重厚“より好きですね。波のように、弦と管がオケから溢れて来ます。しだいにドラマティックになってきて、第4楽章は聴き応えありました。

 この日はオケの裏のC席で指揮者と対面するような場所で聴きましたが、一番目立つ中央の前列に空きが目立ったのが残念でした。

 さて、チケットを取ってある公演、今年はこれで終わってしまいました。12月はできれば当日券で、新国立の“セビリアの理髪師“に行こうかと思っています。多分4回目となる同じ演出での公演で、やや見飽きた感じがあるのですが、ロッシーニ歌いとして名をはせているマキシム・ミロノフがアルマヴィーヴァ伯爵の大アリアを、新国立のセビリアとしては初めて(多分)歌うんですよね。ならばZ席でもいいかと思います。

 あとは、ジョナサン・ノットのコジ・ファン・トゥッテも行ければ行きたいと思っています。

ベートーヴェン交響曲第五番他 by 東フィル

 10月19日のオペラシティでのコンサートに行ってきました。10月に突如発表された、アンドレア・バッティストーニの東フィルの首席指揮者就任。いつかそうなるだろうなとは思っていましたが、けっこう早かったですね。まあ、年に3回ほどは日本に来ていますし、東フィルも空席だったこのポジションをバッティに預けたのは賢明な判断だったと思います。

 この日の演奏は、ヴェルディの歌劇 “ルイーザ・ミラー“の序曲から。これは素晴らしかったです。音の立ち上がりが鋭く、全体に塊感があり、序々に盛り上げて行って、オペラの1幕にめがけて流れ込むような勢いのある音楽に仕上がっていました。前に聴いたレンゼッティの研ぎ澄ましたような指揮、コンロンの豊穣な音とも全く違ったものでしたが、演奏が終わった後に、全幕を聴きたくてしかたなくなりました。(オペラの序曲は、それだけを演奏しても、聴くものを全幕に誘い込むような魅力がなければいけないと思います。)(来年9月にはオテロを演奏会形式でやるそうです。これも楽しみですね。

 さて続く、歌劇 “マクベス“からの舞曲にも魅了されました。魔女たちが踊る蠱惑的で美しい情景が目にうかぶような指揮ぶり。前回聴いたのが、昨年のガッティの指揮ですが、いやずいぶん違うものです。ガッティの指揮は重厚で、舞台のおどろおどろしさを良く表現していましたが、バッティストーニの指揮では、テンポ感があり、なまめかしさ(あるいは色っぽさ?)がとても良く出ていました。バッティストーニが芸術監督を務めるジェノヴァのカルロ・フェリーチェのオケとのCDに納められた同曲に比べても、この”なまめかしさ“が曲を支配して魅力的です。おそらく、これは東フィルの音が、カルロ・フェリーチェのオケに比べて締まって、精妙な音を出しているからではないかと思うのです。今や東フィルは世界のベスト10に入るオーケストラ、バッティストーニの音を体現するには最強のオケだと思います。いずれにしろ、この2つの序曲を聴いてみて、やはりバッティストーニのヴェルディは凄い!と思わざるを得ませんでした。

 続く、ロッシーニの “ウィリアム・テル”序曲も、最初の「夜明け」から最終章の「スイス軍の行進」にむけて、壮絶に盛り上がって行きました。数年前にムーティとジェルメッティの指揮を聴いたきりなので、ひさびさにワクワクした気分で聴きましたが、僕の脳内イメージ的には「ローン・レンジャー」感が強すぎて、前2曲ほどの感激はしませんでした。どうせなら「運命の力」か、「椿姫」の序曲(両方ともカルロ・フェリーチェでやっている)を持ってきて欲しかったなどと思いました。それだと、ヴェルディばかりになりますが。。。

 さて、休憩を挟んでのベートーヴェンの第五番「運命」。実にイタリアンなフルーティーな「運命」でした。開始部の「ジャジャジャジャーン」の速くて軽いこと!まずは聴衆にインパクトを与えようという意図さえも感じられました。ヴェルディの序曲の後で聴いても、違和感のないような指揮ぶり。個人的にはとてもおもしろかったし大満足でしたが、ベートーヴェン聴きの人々にとってはどうだったのでしょうか?感想を聞きたくなりました。ところで、この交響曲を「運命」と呼んでいるのは日本だけだそうです。プログラムに書いてありましたが、知りませんでした。

 盛大な拍手が続く中、アンコールに選んだのは、近々振る予定というラスマニノフのナンバーからヴォカリーズ。これも実にイタリアっぽく味付けられていました。バッティストーニの繊細さが出ていて素敵でした。実際、彼の「椿姫」の序曲などは、CD (ここから試聴できます。)で聴く限りは、ジュリーニの指揮のように繊細でゆったりしています。「鳴らす」バッティというのが聴衆のイメージでしょうが、繊細な指揮もこれからは聴いてみたいと思いました。

第105回東京オペラシティ定期シリーズ
2016年10月19日(水) 19:00 開演
東京オペラシティコンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ヴェルディ/歌劇『ルイザ・ミラー』序曲
ヴェルディ/歌劇『マクベス』より舞曲
ロッシーニ/歌劇『ウィリアム・テル』序曲
ベートーヴェン/交響曲第5番『運命』

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