プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団

 11月27日、よこはまみなとみらいホールでの公演に行ってきました。狙いは、ヤルヴィの指揮で、今やベルリンフィルのコンマスになった樫本大進のベートーヴェンヴァイオリンソナタを聴こうというもの。樫本さんのヴァイオリンは、実に艶があって美しい音です。特に高音のピアニシモは天国から聞こえてくるよう。ヤルヴィの指揮は、ヴァイオリンを引っ張るというよりは、寄り添うようにやさしく響きます。

 これに先だって、シューマンの歌劇「ゲノフェーファ」の序曲がありました。シューマンのオペラなんてあったの?という感じですが、この序曲は独立して良く演奏されているようです。8分ほどの曲ですが、今回のコンサートの序曲のようになって、軽快な印象でした。

 さて、そして久々に“ブラいち”! 軽快なテンポで展開されていきます。“速めで軽快”というのは今の指揮の流行か?でも”遅めで重厚“より好きですね。波のように、弦と管がオケから溢れて来ます。しだいにドラマティックになってきて、第4楽章は聴き応えありました。

 この日はオケの裏のC席で指揮者と対面するような場所で聴きましたが、一番目立つ中央の前列に空きが目立ったのが残念でした。

 さて、チケットを取ってある公演、今年はこれで終わってしまいました。12月はできれば当日券で、新国立の“セビリアの理髪師“に行こうかと思っています。多分4回目となる同じ演出での公演で、やや見飽きた感じがあるのですが、ロッシーニ歌いとして名をはせているマキシム・ミロノフがアルマヴィーヴァ伯爵の大アリアを、新国立のセビリアとしては初めて(多分)歌うんですよね。ならばZ席でもいいかと思います。

 あとは、ジョナサン・ノットのコジ・ファン・トゥッテも行ければ行きたいと思っています。

ベートーヴェン交響曲第五番他 by 東フィル

 10月19日のオペラシティでのコンサートに行ってきました。10月に突如発表された、アンドレア・バッティストーニの東フィルの首席指揮者就任。いつかそうなるだろうなとは思っていましたが、けっこう早かったですね。まあ、年に3回ほどは日本に来ていますし、東フィルも空席だったこのポジションをバッティに預けたのは賢明な判断だったと思います。

 この日の演奏は、ヴェルディの歌劇 “ルイーザ・ミラー“の序曲から。これは素晴らしかったです。音の立ち上がりが鋭く、全体に塊感があり、序々に盛り上げて行って、オペラの1幕にめがけて流れ込むような勢いのある音楽に仕上がっていました。前に聴いたレンゼッティの研ぎ澄ましたような指揮、コンロンの豊穣な音とも全く違ったものでしたが、演奏が終わった後に、全幕を聴きたくてしかたなくなりました。(オペラの序曲は、それだけを演奏しても、聴くものを全幕に誘い込むような魅力がなければいけないと思います。)(来年9月にはオテロを演奏会形式でやるそうです。これも楽しみですね。

 さて続く、歌劇 “マクベス“からの舞曲にも魅了されました。魔女たちが踊る蠱惑的で美しい情景が目にうかぶような指揮ぶり。前回聴いたのが、昨年のガッティの指揮ですが、いやずいぶん違うものです。ガッティの指揮は重厚で、舞台のおどろおどろしさを良く表現していましたが、バッティストーニの指揮では、テンポ感があり、なまめかしさ(あるいは色っぽさ?)がとても良く出ていました。バッティストーニが芸術監督を務めるジェノヴァのカルロ・フェリーチェのオケとのCDに納められた同曲に比べても、この”なまめかしさ“が曲を支配して魅力的です。おそらく、これは東フィルの音が、カルロ・フェリーチェのオケに比べて締まって、精妙な音を出しているからではないかと思うのです。今や東フィルは世界のベスト10に入るオーケストラ、バッティストーニの音を体現するには最強のオケだと思います。いずれにしろ、この2つの序曲を聴いてみて、やはりバッティストーニのヴェルディは凄い!と思わざるを得ませんでした。

 続く、ロッシーニの “ウィリアム・テル”序曲も、最初の「夜明け」から最終章の「スイス軍の行進」にむけて、壮絶に盛り上がって行きました。数年前にムーティとジェルメッティの指揮を聴いたきりなので、ひさびさにワクワクした気分で聴きましたが、僕の脳内イメージ的には「ローン・レンジャー」感が強すぎて、前2曲ほどの感激はしませんでした。どうせなら「運命の力」か、「椿姫」の序曲(両方ともカルロ・フェリーチェでやっている)を持ってきて欲しかったなどと思いました。それだと、ヴェルディばかりになりますが。。。

 さて、休憩を挟んでのベートーヴェンの第五番「運命」。実にイタリアンなフルーティーな「運命」でした。開始部の「ジャジャジャジャーン」の速くて軽いこと!まずは聴衆にインパクトを与えようという意図さえも感じられました。ヴェルディの序曲の後で聴いても、違和感のないような指揮ぶり。個人的にはとてもおもしろかったし大満足でしたが、ベートーヴェン聴きの人々にとってはどうだったのでしょうか?感想を聞きたくなりました。ところで、この交響曲を「運命」と呼んでいるのは日本だけだそうです。プログラムに書いてありましたが、知りませんでした。

 盛大な拍手が続く中、アンコールに選んだのは、近々振る予定というラスマニノフのナンバーからヴォカリーズ。これも実にイタリアっぽく味付けられていました。バッティストーニの繊細さが出ていて素敵でした。実際、彼の「椿姫」の序曲などは、CD (ここから試聴できます。)で聴く限りは、ジュリーニの指揮のように繊細でゆったりしています。「鳴らす」バッティというのが聴衆のイメージでしょうが、繊細な指揮もこれからは聴いてみたいと思いました。

第105回東京オペラシティ定期シリーズ
2016年10月19日(水) 19:00 開演
東京オペラシティコンサートホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ヴェルディ/歌劇『ルイザ・ミラー』序曲
ヴェルディ/歌劇『マクベス』より舞曲
ロッシーニ/歌劇『ウィリアム・テル』序曲
ベートーヴェン/交響曲第5番『運命』

ベートーヴェン「皇帝」、「田園」、チョン・ミョンフン指揮

 9月21日、東京フィルハーモニーの定期公演でオペラシティに行きました。今シーズンから定期会員になったので、いつも前から3列目の右手という悪く無い席で、しかもリーズナブルな価格で良質な音楽が聴けるのがとても良いです。

 ピアノ協奏曲「皇帝」はベートーヴェン最後の協奏曲で、既に聴力が衰えていたころの作品ということですが、そのメローディーの力強さと曲の構成力で、彼は天才だったと再認識させられます。

 ピアノのチョ・ソンジンは弱冠22歳、昨年のショパン国際ピアノ・コンクールで優勝し現在売り出し中ですが、僕はこの日初めて聴きました。透明感があり、華やかさもある中で(やや華やか過ぎるか?….)、説得力のある自己主張をします。これは、ピアノのアンコール、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」第2楽章でよりはっきりとわかりました。「皇帝」の弾きっぷりも見事としか言いようのないもので、グイグイとオケを引っ張る感じです。怖いものなしの若者という雰囲気が素敵ですね。決して繊細という感じはしませんでしたが、ショパンも聴いてみたいと思います。

 チョン・ミョンフンのコンサートは最近、「完売御礼」が続いてます。人気ですね。東フィルは、バッティストーニもそうですが、良い指揮者を捉えています。

 田園の音は、各楽器のパートが立ち上がるように響いてきて、田園の色彩が印象派の絵のように(決して細密画ではない)聴くものの体の中で再生されるようでした。身をゆだねて目をつぶって聴いていると、セザンヌの絵の中をさまようような感じ。オケはそのキャンバスのように広がりを感じさせます。

 アンコールは、交響曲第7番第4楽章。もともとスピーディな曲ですが、ミョンフンの指揮はスーパースピード!こちらは引き締まった音の塊がオケから飛んでくるようなイメージ。クライバーもそうですが、ライブで聴くには最も楽しいベートーヴェンかもしれません。

 この日(21日)はNHKホールで、映画「男と女」30周年のコンサートがあり、どちらに行こうか迷いましたが、オペラシティに来て満足でした。

■指揮:チョン・ミョンフン
■ピアノ:チョ・ソンジン*

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番『皇帝』*
ベートーヴェン/交響曲第6番『田園』

ソリストアンコール:ベートーヴェンピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章

オーケストラアンコール:ベートーヴェン交響曲第7番第4楽章

東フィル定期公演、モーツァルト40番、チャイコフスキー4番

だいぶ前になってしまいましたが、東フィルの定期公演第103回、チョンミョンフン指揮のコンサート、7月21日にオペラシティで聴きました。素晴らしかったです。忙しかったので、なぜか頭の中で41番「ジュピター」と勘違いしていました。(レレレ)もちろん、開演前には気づきましたが。

モーツァルト交響曲第40番は、おなじみの旋律。小林秀雄は「ほんとうに悲しい音楽」と評した、とプログラムにありますが、この日の40番は、ソフトな感じで弦に深い奥行きを感じ、長調の旋律が美しく盛り上がってきて、それほど「悲しい」とは思いませんでした。実に丁寧な演奏だったと思います。

そしてチャイコフスキーの交響曲第4番は、うってかわって「鳴らして」くれました。あまりチャイコフスキーは聴かないので、この曲も実は初めて聴きました。スケール感が大きく、オケを鳴らし切ってくれました。

ミョンフン、小さな体ですごいパワーを持っています。満足な夜でした。

再びバッティストーニ。ヴェルディ、ロータ、レスピーギ

 東フィルの6月10日の定期公演に行けないため、この切符を5月16日のサントリーホールでの公演に交換してもらいました。こういうサービスがあるのはとても便利です。

指揮:アンドレア・バッティストーニ
曲目 ヴェルディ/歌劇『ナブッコ』序曲
ニノ・ロータ/組曲『道』
レスピーギ/交響的印象『教会のステンドグラス』

 最初の曲は、久しぶりにバッティのヴェルディ。去年の5月に『シチリア島のゆうべの祈り』の舞曲を聴いて以来。ナブッコは彼が日本にデビューした2012年に二期会で振った演目であり、(先ほどまで"新国立”と誤って記載していました。すみません。)CDにも”Va Pensiero (黄金の翼に乗って)“が入っており、もはや彼の得意演目になっています。最初の金管の響きからして遠くから観客席をめがけて音を飛ばしてくるような緊張感があります。そして、破壊的とも言える”イズマエーレの裏切りのテーマ”にかかるところは、まさにバッティの真骨頂。音が三次元的に洪水のように降りかかってきます。そして、”Va Pensiero”のテーマに戻る時のしっとりとした感じとテンポの切り替え。以前よりもスローになっていると思いますが、彼の熟成を表しているのではないでしょうか。「やっぱりヴェルディはいいなぁ」と思います。この序曲を「雑な曲」という音楽学者もいるそうですが、オペラの構成を凝縮した、実に緻密な序曲だと思います。

 ナブッコ序曲は10分足らずで終わり、2曲目は、ニーノ・ロータの『道』のバレエ組曲。フェリーニの映画は「ローマ」と「道」しか見ていませんが、「道」でのアンソニー・クインがトランペットで吹く(たしか吹いていたと思います。)主題曲、そしてキュートなジェルソミーナの印象が白黒で頭に焼き付いています。このバレエ組曲では、主題のテーマは不協和音の中から頭を持ち上げるように出て来ますが、何か不思議で悲しい印象。全体に映画のサントラのようなセンチメンタルな流れは少なく、サーカス団の賑わいや、ザンパノとジェルソミーナの狂気的な部分が音にされて、実に興味深い音楽でした。バッティの指揮はその魅力を120%引き出してくれています。ニーノ・ロータ、エンリオ・モリコーネの音楽はヴェルディ、プッチーニ、そしてヴェリズモの作曲家の流れを組んでいるなぁと思ったしだい。。。。感心しているうちに30分が過ぎました。

 そして、最後がこれも初めて聴くレスピーギの「協会のステンドグラス」。もはや、レスピーギと言えばバッティストーニという感じのここ数年のクラシック界。期待通り、いやそれ以上でした。曲のタイトルのように、色彩が散りばめられたこの曲、バッティはその色彩のひとつひとつを水晶の柱を伸ばすように立体的に指揮していきます。この曲自体はグレゴリオ聖歌の影響を受けているようですが、僕には先日ニースで見たシャガールのステンドグラスが思い出されました。最終章にパイプオルガンが鳴り響くところは圧巻でした。レスピーギは、バロックも良く勉強していたそうですね。この「協会のステンドグラス」の8年前の1917年には『リュートのための古風な舞曲とアリア』という僕の好きな曲を書いていますが、これはまた全く違う作風。

https://www.youtube.com/watch?v=S27LDn5pBgs

さらに昨日はアンコールがあったのです。マスカーニのカヴァレリア・ルスカティーナの間奏曲。CDに入っているのを聴いたときには、ちょっと曲の流れがガクガクしている印象があったのですが、だいぶ手慣れた感じになっていて良かったです。弦が分厚い感じ。まあ、これは曲がいいですからね、アンコールでやると大拍手になるのは当然でしょう。この秋にはマスカーニのオペラ"イリス”を演奏会形式で振るので、そのことと関連づけてのアンコールだと英語で言っていました。

16日のバッティストーニ、大満足でした。先日のブラームスもとても良かったですが、やはり個人的にはバッティストーニにはイタリア物、それもヴェルディを振ってほしいです。ルイーザ・ミラーやファルスタッフなど、イタリアで振った作品を日本でもやってほしいですね。

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