プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

新刊「音楽で楽しむ名画」加藤浩子著

 昨年、12月に刊行された「オペラでわかるヨーロッパ史」から、ちょうど1年、加藤さんの新刊が発売になり、予約していたので一昨日の金曜日、初版日の翌日に届きました。「カラー版 音楽で楽しむ名画: フェルメールからシャガールまで (平凡社新書)」。早速、一気に読みました。
 
 音楽と絵画を結びつけた本って、今までなかったように思います。僕は絵も描けないし、歌も歌えませんが、毎年一回、家内とヨーロッパに旅行に出かけるときは、オペラと美術館をセットにして数カ国を巡ります。そういう人はいらっしゃると思いますから、この本を楽しみに待っていた音楽ファン、美術ファンも多いと思います。

 この本には40のエッセイが書かれており、そのひとつひとつが、音楽と絵画のつながりを、歴史的な資料と、緻密な研究、カラーの絵画、そして著者の思考力から編み出される指摘や推察で、実に魅力的で知的な宝石箱のような読み物に仕上げています。

 まず、心臓がドキドキするくらいに衝撃を受けたのは、ヴェルディの“リゴレット”と、スペインの画家ディエゴ・ヴェラスケスの名画“ラス・メニーナス”に見る異形の登場人物との関係について書かれた「宮廷道化に託された人間の姿(P75)」でした。ヴェラスケスは、僕の大好きな画家で、昔、短い期間でしたが、マドリッドに住んでいた時には、この絵の前に何度も何時間も立っていました。宮廷で浪費に明け暮れたフェリペ4世の姫と女官たちを、ヴェラスケスは冷めた目でこの絵を描いたと、スペイン人の教師に教わりましたが、加藤さんは、その異形の人々の悲しみを、マントヴァ公の庇護を受けながら美しい娘を救えなかったリゴレットに結びつけています。

 この文章は、第三章の「はみ出し者たちの饗宴」で語られていますが、この章には他にも「お針子たちの夢」というエッセイもあり、ラ・ボエームとルノワールの絵の関連性が書かれています。そして、ルノワールの「プージヴァルのダンス」のモデルは、モーリス・ユトリロの母のシュザンヌ・バラドンだと説明されています。バラドンも僕の大好きな画家で、昨年のBunkamuraでのエリック・サティ展で、彼女がサティの生涯ただ一人の愛人であったことを知り、とても興奮したのですが、加藤さんの本を読んで、またその興奮がよみがえってきました。

 この他にも、クリムトとマーラーの一人の女性を鍵につながる芸術性のこと、ドビュッシーやラヴェルとモネのフランス印象派の共通性、バイオリンの名手だったパウル・クレーと彼の絵画の中に隠された音楽への造詣などなど、あまり書くと「ネタバレ」になってしまいますので控えますが、この本は音楽と筆者のもつ絵画への愛情と知識が、この2つの分野を時空と領域を超えてコンタクトさせた名著だと思います。

 昨年、僕は家内とアムステルダムの歌劇場で、ドミナーノ・ミキエレットの演出による”ランスへの旅“を聴いてきましたが、この演出はとても素晴らしく、舞台は美術館、コルテーゼ夫人は学芸員、フォルヌヴィル伯爵夫人の荷物として運び込まれるのは、名画の数々、最後のシーンはそのまま紗幕が降りて、画家フランソワ・ジラールの「シャルル10世の戴冠式」になって終わったのですが、加藤さんの本を読んで、その時の興奮もよみがえりました。要は、僕はこの本を読んで興奮ばかりしていたということです。

 演出家でさえも、なかなか結びつけられない音楽と絵画のつながり、これを見事に、しかも、40もの例を出して本に編み上げたところに、この本のすごさがあると思います。何年かしたら続編を出してほしいと願わずにはいられません。Brava 加藤さん!

今年後半の観劇プラン

 早くもおせち料理の案内が届いたので(あまりに早い!)、今年もあと3ヶ月ということに気づきました。毎年10〜11月はオペラの公演ラッシュになるので、ここらへんで何を見に行くのか、一旦整理してみました。

 まず、何より残念だったのは、10月8日からパルマのフェスティバル・ヴェルディに行くつもりで、飛行機のチケットもホテルも取っていたのに、肝心の公演の切符が取れず、ドン・カルロ、群盗、ジョアンナ・ダルコの三作を1週間で見るという旅行を断念せざることになったことです。ヨーロッパのエージェントを通しても席が取れなかったのは初めてです。

 それで、気を取り直して秋冬の予定を立て直しました。

■2016/10/2 ワルキューレ                新国立劇場

■2016/10/8あたり コジ・ファン・トゥッテ                 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

■2016/10/16 エフゲニー・オネーギン(マリインスキー) 文化会館

■2016/10/19            ヴェルディ『ルイザ・ミラー』序曲
                      ヴェルディ『マクベス』より舞曲
                      ロッシーニ『ウィリアム・テル』序曲他
                      アンドレア・バッティストーニ指揮東フィル     オペラシティ

■2016/10/30            セミラーミデ                 藤沢市民会館

■2016/11/6                ノルマ                     オーチャードホール

■2016/11/9                ワルキューレ(ウィーン国立歌劇場)   文化会館

■2016/11/26            ナクソス島のアリアドネ(二期会)      日生劇場

■2016/11/27            シューマン:歌劇「ゲノフェーファ」序曲 他
                      パーヴォ・ヤルヴィ指揮
                      ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 横浜みなとみらいホール

というところです。ウィーン歌劇場の、フィガロの結婚、ナクソス島のアリアドネも行きたいのですが、チケット高いですねー。とりあえず、ニーナ・シュテンメ、ペトラ・ラングという大物が歌う"ワルキューレ”だけ押さえました。これがこの秋の目玉です。それで、ナクソス島は二期会で聴こうと思います。ノルマはグルベローヴァの方を取りました。パルマ行きがなくなり、ヴェルディの演目が、東フィルの序曲の公演しかなくなってしまったのは、とても寂しいですね。個人的にお勧めなのは、10月の連休のテアトロ・ジーリオ・ショウワの”コジ・ファン・トゥッテ”。昭和大学のオペラ公演ですが、毎年聴きに行って裏切られたことがありません。
http://www.tosei-showa-music.ac.jp/event/20161008-00000153.html
S席で¥4,800-とウィーン歌劇場の1/10です!

バレエは、時間が取れたら新国立の”ロメオとジュリエット”を考えています。



オペラ・スクオーラ講座セミナー終わりました。

23日水曜日に、新百合ヶ丘の昭和音楽大学北校舎5階 ラ・サーラ・スカラで開催された、川崎・しんゆり芸術祭(アルテリッカ発)アート講座第 「オペラ・スクオーラ」の第4回目の講師として、「オペラに見る男と女の素敵な関係」というテーマで2時間お話をしてきました。

大学で教えていますから、しゃべるのは慣れています。けれど、オペラをテーマにして180人もの方を前に話すのは本当に緊張しました。けっこう練習しましたけど、練習通りには行きませんでしたね。それでも、講演後、何人かの来場者の皆様とお話することが出来て良かったです。

今回の「男と女の素敵な関係」は次の例を取り上げました。

 “愛と妙薬”のアッディーナとネモリーノ
 “夢遊病の娘”のアミーナとエルヴィーノ+ロドルフォ伯爵
 “フィガロの結婚”のスザンナとフィガロ、伯爵夫人とケルビーノ、伯爵夫人と伯爵
 “ばらの騎士”のオクタヴィアンとゾフィー、オクタヴィアンと元帥夫人
 “こうもり”のアイゼンシュタインとアデーレ
 “ラ・トラヴィアータ“ のヴィオレッタとアルフレード+ジェルモン、そしてアルフォンシーヌ・プレシとペレゴー伯爵

ばらの騎士とこうもり以外は、藤原歌劇団のご厚意で、映像をお借りすることができたので良かったです。しかし、なにせ、トラヴィアータ好きの僕なので、話の半分くらいを”ラ・トラヴィアータ”に裂いてしましました。ペレゴー伯爵の話は良い話です。これはオペラ以上に実話で「素敵な関係」があったということですね。

もしご覧になってなかったら、僕が昨年に、日本ヴェルディ協会の機関誌”ヴェルディアーナ”にのせたエッセイをご笑覧くださいませ。http://provenzailmar.blog18.fc2.com/blog-entry-564.html


その前の週末は、ベーシストの鈴木良雄さんのライブセッションに行きましたが、それはまた次回。。。。

しんゆり芸術祭のオペラ・スクオーラでしゃべります。

川崎・しんゆり芸術祭(アルテリッカ発)アート講座第2弾 「オペラ・スクオーラ」というイベントで講師をやることになりました。この芸術祭のメインは、4月23日と24日にテアトロ・ジーリオ・ショウワで行われる「愛の妙薬」です。
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そうそうたる、諸先生方の中に入って一段と「ん、誰?」と思われてしまうオペラ素人ファン代表ですが、がんばろうと思います。よろしかったらお出かけください。
詳しくは、アルテリオ小劇場

パンフレット

th-クリーンショット

加藤浩子著「オペラでわかるヨーロッパ史」

 正月休み前に発刊された、楽しみにしていたこの本、やはり期待を裏切らない素晴らしいものでした。オペラの公演のプログラムガイドなどに、そのオペラが書かれた背景などが解説されてあることは良くありますが、これほど深く追求された集大成的な本は初めてだと思います。加藤さんは、ヴェルディの専門家であり、僕もオペラ作曲家の中ではヴェルディが群を抜いて好きなので、シチリアの晩鐘、シモン・ボッカネグラ、リゴレット、仮面舞踏会などの歴史的考察は大変おもしろかったです。特に加藤さんが、最近ヴェルディ協会の機関誌”ヴェルディアーナ“でも発表した「ヴェルディの捨て子」の考察は、その子孫へのインタビューも含めていて、単なる推察ではない「凄み」を感じました。

 この加藤さんの説を読んでから再びシモン・ボッカネグラを見直しましたが、新しい、ひしひしと心に迫る感動がありました。また、オペラのように毒薬で簡単には死ねずに数日間苦しんだ後で亡くなったこと、舞台では最後に涙を誘う「次の総督をアドルノに…」という事実は無かったことなどが、何度も見たオペラをまるで初めて見るように変えて行きます。彼女が書いたように、ジェノヴェのサンタゴスティーノ博物館の「ゆがんだ表情に見えた」シモン・ボッカネグラの横たわった像を見たくてしかたなくなりました。

 リゴレットについても、背中に瘤のある矮人(わいじん)として、ヴェラスケスの絵のそれを例に取って説明していることで、当時のそのような人達への偏見、そして彼等の立場、悲しみが視覚的に良くわかります。特にラス・メニーナスの絵は僕が短期間マドリッドに住んでいたころに毎週プラドに見に行っていたものですし、その後もピカソ版を追っかけて「生涯の絵」になっているものだけに、そこに”リゴレット“という大好きなオペラをリンク付けた加藤さんの才能、それにも増して研究に研究を重ねてこそ到達した知見に感動しました。この本を読まなければ、二つの芸術が僕の中でくっつくことはなかったのですから。

 もちろん、オペラはそんなに勉強しなくてももちろん楽しいです。でもシャンパンの泡のようにその楽しみが観劇後に序々に消えてしまうよりは、人生を豊かにする血となり、肉となることがもっと素晴らしいということをこの本は教えてくれました。やや興奮しながらの感想です。

オペラでわかるヨーロッパ史 平凡社新書 ¥780

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