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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ホフマン物語 新国立劇場

 雪のミラノから戻ったら日本は暖かったです。世界の天気を見たら、パリもミラノも今週は暖かいんですねー。12度ですって…..今週に行きたかったです。

さて、まだ時差ボケもそこそこ残っている状況で、水曜日(3月7日)にオペラシティで、東フィルの定期公演、バッティストーニと小曽根真のセッション(?)を聴き、昨日3月10日に、新国立劇場で“ホフマン物語”を聴きました。先に“ホフマン物語”の感想をアップします。

 このオペラは新国立では2013年に、今回と同じフィリップ・アルローの演出で見ています。そして、2014年に大野和士が率いて来日したリヨン歌劇場でも見ているので、3回目になります。(バレエでも見ていますけど)いつも、なんとなく「長いなぁ」と思う演目でしたが、今回は惹き付けられてしまい、全くそう感じませんでした。その大きな要因は歌手陣の充実でしょう。まずは何と言ってもディミトリー・コルチャック。2014年にパルマ王立劇場で、降板したシラクーザの代役でナディールを歌ったのを皮切りに、新国立のウェルテル、マリインスキーのオネーギン、そしてこの日のホフマンと4回聴いていますが、聴く毎にどんどん上手くなっています。もちろん最初から甘い歌声は素晴らしかったのですが、ブレスがきつかったり、やや音程がふにゃふにゃしたりするところがあったのですが、この日のホフマンは、もう甘くて、しかも立派という感じで、感激しました。ルックスもいいですから、女性のファンが急増しているのも頷けます。もともとは指揮者を目指していて、現在もロシアの小劇場(どこだったか….)の主席指揮者を務めているそうです。この紹介はゲルギエフが行ったとか。ということで、彼は楽譜と台本から役柄の心情をくみ取るのがうまいのだと思います。ちなみに、先週スカラ座で聴いた、フローレスもホフマンを最近得意としているようで、こっちも聴いてみたいですね。

 そして、バスバリトンのトマス・コニエチュニーも抜群の出来だったと思います。出来が良いというか、もともとのこの人の実力はワーグナーの作品で折り紙付きなので良くて当然でしょう。リンドルフ、コッペリウス、ミラクル博士、ダペルトゥットの4役を歌い分けましたが、彼が歌うと舞台がトマス色に染まる感じ。ただ、この色があまりフランスっぽくないんですね。ワーグナー歌手なのでしかたないところですが、デセイの夫君のロラン・ナウリあたりを引っ張ってきてもらって聴きたいなという感じがちょっとしました。

 日本人歌手も大健闘でした。特に素晴らしかったのはアントニアを歌った砂川涼子。ウェルテルのソフィーの時もそう思ったのですが、今、日本のソプラノでフランスものを歌ったら最高でしょう。ちょっと鼻にかかった美しいフランス語(だと思うんです。。)が素晴らしい。出演者中、一番フランスっぽい発音じゃなかったでしょうか?演技も病のアントニアの刹那を良く出していて引き込まれました。

 とにかく全体の歌手のレベルがとても高い!多くの歌手をそろえなくてはならない点では、“ランスへの旅”に匹敵するくらいです。これだけのホフマンは海外でもなかなか聴けないと思います。

 そして、僕の大好きなのが、アルローの演出。実に洒落ています。特にアントニアの場面での斜めになった家具や、舟歌のところで、廻りながら出てくるゴンドラなど、そんなにコストをかけているとは思いませんが、抜群のイメージ作りをしています。

 印象に残らなかったのが指揮です。決して悪くはないのですが、一貫してシンプル且つ淡泊。大野和士さんの指揮などは、その重みが今も頭の中に残っていますが、このルランの指揮は、やや物足りない感じでした。

 それでも、全体としては十二分に満足。次回は、音楽監督になる大野さんに振ってもらいたいところです。

指 揮:セバスティアン・ルラン
演出・美術・照明:フィリップ・アルロー
衣 裳:アンドレア・ウーマン
振 付:上田 遙
再演演出:澤田康子
舞台監督:斉藤美穂
ホフマン:ディミトリー・コルチャック
ニクラウス/ミューズ:レナ・ベルキナ
オランピア:安井陽子
アントニア:砂川涼子
ジュリエッタ:横山恵子
リンドルフ/コッペリウス/ミラクル/ダペルトゥット:トマス・コニエチュニー
アンドレ/コシュニーユ/フランツ/ピティキナッチョ:青地英幸
ルーテル/クレスペル:大久保 光哉
ヘルマン:安東玄人
ナタナエル:所谷直生
スパランツァーニ:晴 雅彦
シュレーミル:森口賢ニ
アントニアの母の声/ステッラ:谷口睦美
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


あー、やっぱりシモン・ボッカネグラは素敵だ!

 さて、昨晩の“オルフェオとエウリディーチェ”の興奮も醒めやらぬまま、今日はヴェルディの名作(佳作とは言いたくない)、“シモン・ボッカネグラ”です。僕が、ヴェルディのオペラの中で一番好きなオペラ、ということは全オペラで最も好きな作品です。でも知らない方も多いでしょうね。日本では滅多に上演されませんから。それでも、最近では2014年の5月のローマ歌劇場来日公演の際に、ムーティの指揮で文化会館で上演されています。もちろん行きました!しかし、それ以外で日本で聴いたのは、大阪いずみホールでの2013年の公演だけです。あとの7回はすべて海外、ウィーン、チューリッヒ、サンフランシスコ、モデナ、MET、バルセロナそして今回のスカラ座です。で、このうち、4回のタイトルロールはレオ・ヌッチ。今回もヌッチです。ヌッチも今年76歳、まだまだ元気とは言え、聴ける時に聴いておかないと….という気持ちは強くなっています。ヌッチ自身も、先月シドニーでのリゴレットを降板した後に、「今後は海外には行かない」と弱気なことを言っているとか。(今、決まっている来日公演は大丈夫だそうです。ご安心を)そして、これはしばらく前から言っていることですが、もう、ヴェルディの父親役しか歌わないそうです。僕は、シモンの他には、ミラー、ジェルモン、ナブッコしかヌッチを聴いてないのです。フォスカリはシチリアで聴くはずが降板されてしまいました。聴きたいなぁ。

 前置きが長くなりましたが、今回の旅行の一番の目当ては、この大好きなヌッチのシモンを、これまた大好きなチョン・ミョンフンの指揮で聴くこと!指揮は期待通り、このオペラの魅力を最大限に出してくれました。序奏はやや遅めに始まり、パオロとピエトロの最初のやりとりは、不気味に静かに進んで行きます。そしてシモンが登場し、フィエスコが、“Qual cieto fato a oltraggiarmi ti traea? 「お前は私を侮辱する運命なのか?」”と歌うところから、急激に盛り上がります。ここの曲調は、「月光仮面」の主題歌に似ているなぁといつも思います。ちょっと新派みたいですね!シモンは、1857年に初演されたあとに、1881年にボイートによる改訂版で再演されていますので、ヴェルディの中期と後期の音楽がところどころに混じって見受けられます。この部分は多分中期のところでしょう。

 ミョンフンの指揮は、僕が普段聴いている、カッレガーリの指揮(Tutto Verdiに収録)に比べると、やや抑揚感が大きいという気がしましたが、そのほうが、この活劇調の作品には合っています。歌手への寄り添いかたは、見事なものでした。ローマ歌劇場来日でムーティが歌手を引っ張って行ったのとは全く違い、安心して聴いていられました。

 この公演当日、雪で外気は低音、湿気も多かったので、ヌッチの喉の調子を心配しましたが、始まってみれば絶好調! 低音から高音まで良く出ていました。特に中高音部の感情表現はますます素晴らしく、これほどのシモンを歌える歌手は、残念ながら世界に他にはいないと思います。シモン自身のモットーは “onore(名誉)“なのですが、ヌッチの声は、このオペラの間中、ずっとonoreを感じさせてくれます。ラ・トラヴィアータのジェルモンを歌う時などは、いじわるさ、やさしさ、おろおろとした感じ、そして、それらのどれだかがわからない怪しい感じを出してくれるのですが、シモンでは全く別で、「名誉」を体全体で醸し出してくれる、という感じですね。作曲家ヴェルディが自分を一番投影しているオペラでの役柄がこのシモン・ボッカネグラなのだと思います。つまり、基本的に自由であり、平等であり、因習にとらわれずに愛する人を愛し、敵も許す、そいういうところですね。

 フィエスコのドミトリー・ベロセルスキー、このところヌッチの相手役をよく務めていますが、朗々と響く低音に魅了されました。プロローグのヌッチとのやりとりで、シモンをあくまで許さないという、頑固さ、意地悪さが、良く出ていて、この二人のやりとりに釘付けになりました。3幕目、シモンが亡くなった後を締めるのも、このフィエスコの低音ですから、この役の声が良くないと最後が駄目になっちゃうんですよね。この点でも最高でした。

 そして、さらなる贅沢とも言えるのが、パオロ役のダリボール・イエニス。日本でも新国立のセビリアなどでおなじみのバリトンですが、主役も張れる実力派。このオペラ、終わりがフィエスコなら、初めはパオロが肝心なのです。最初の“Che dicesti?....(何と言った?)” 一声が、低めいっぱいに決まらないと(野球か?)全然しまらなくなってしまいます。その後、シモンが出てくるまでが、プロローグのプロローグで、パオロとピエトロの聴かせどころです。ピエトロのエルネスト・パオリネッロもスカラ座来日の時のリゴレットで、モンテローネを歌っており、今回のシモンのバリトン、バス陣は本当に贅沢でした。

 アメーリアの婚約者で、シモンの敵役でもある、ガブリエーレ・アドルノは、これも僕の大好きなファビオ・サルトリ。今まで聴いたシモン・ボッカネグラのうち4回はアドルノをサルトリで聴いています。聴くたびに体が大きくなってきていて、今はおそらく130kgくらいはあるのではと思わせる巨体。個人的にはメーリより好きですが、ビジュアルのせいでしょうか、このアドルノ役以外ではラダメスくらいで、あまり多くの役には出ていないようですね。日本に来たこともないのでは?? 声は玉をころがすような美しいリリックなテノールで、聴き応えあります。演技は期待できないですが。。。

 ちょっと物足りなかったのが、アメーリアのクラシミラ・ストヤノヴァ。出だしが緊張していた感じで、やや堅く、2幕目以降はだいぶ良くなるのですが、声としてはやや強めで、イタリアっぽさが無い感じがしました。リヒャルト・シュトラウスを得意としているようで、ちょっとこの役には合わないかなと思いました。ここ数年は、ラッキーなことにアメーリアはバルバラ・フリットリで2回聴いてしまっているのも、この辛口評価につながったと思います。

 演出はベルリン歌劇場と共同のものですが、やや暗くて濃いグレーの壁ばかり出て来て単調な感じがしました。しかし、音楽と歌唱を邪魔しないのは良かったです。シモンの演出では前述のチュ—リッヒ歌劇場のデルモナコの演出か2014 年のパルマのガリオーネの演出が、色が美しくて好きです。やはり、舞台のジェノヴァのアドリア海のイメージが少し出て欲しいと思うのです。今回の演出ではプロローグが船着き場になってはいるのですが、あまりにも暗くて、プッチーニの“外套”の船着き場みたいな感じでした。

 この、シモン・ボッカネグラは実在の人物で、14世紀のジェノヴァ共和国の総統で、オペラの物語も歴史に則しており、ワインに毒を盛られて暗殺されています。彼の生家と墓所はジェノヴァにあるとのことで、ミラノから電車で2時間弱なので、行ってみようかとも思ったのですが、なにせ、雪で零下の気温の中を歩き回る気にならないので、やめました。

 それにしても、この旅の3つの公演、本当に満足なものでした。こんなに高水準の公演が1週間に3つも見られるというのは、欧州に年に1-2度来るくらいでは、なかなかありません。この日のカーテンコールではヌッチさん、上機嫌でみんなを引っ張って、拍手に応えていました。最前列で見ていたので、その様子が良くわかったのですが、こちらが興奮しすぎて、写真を撮るのをうっかり忘れてしまいました。残念!

 あさって日本に帰り、ホフマン物語です。あ、その前にバッティストーニと小曽根真のコンサートもある!楽しみです。

Conductor Myung-Whun Chung
Staging Federico Tiezzi
Sets Pier Paolo Bisleri
Costumes Giovanna Buzzi
Lights Marco Filibeck
CAST
Simone Leo Nucci
Amelia Krassimira Stoyanova
Jacopo Fiesco Dmitri Belosselskiy
Gabriele Adorno Fabio Sartori
Paolo Albiani Dalibor Jenis
Pietro Ernesto Panariello


 

 

オルフェオとエウリディーチェ@スカラ座

 
雪のパリを後にして、雪のミラノにやってきました。着いた日の朝は零下8度。最高気温も2度。例年の最高気温は12度くらいらしいですから、半端ではない寒さです。数十年ぶりの寒さとか、、、何もこんな時に来なくてもって地元の人は思っているでしょうけど、オペラのチケットの都合があるんで、選べないんですよね。でもって、今回は4日滞在するので、スカラ座から歩いて5分という場所にあるアパートを借りました。室内にキッチンが付いていますし、両隣にカフェとパニーニレストランがあって便利なことこの上ないです。エマニュエル2世通りの一本裏なのに、とても静かなのも気に入りました。何より、暖房がとても良く効いていて室温は常に21度!しかも、「マジ?」というくらい安い。。

 “オルフェオとエウリディーチェ”はグルックの最も有名なオペラで、1762年にウィーン宮廷劇場で初演、(ウィーン版)、そしてこれにバレエを加えたパリ版が1774年にパリオペラ座で上演されています。昨年生誕450年を迎えたモンテヴェルディよりは100年以上後の音楽家で、バロックオペラの改革者として有名です。僕はてっきりフランス人だと思っていたのですが、なんとドイツ人でした。グルックのオペラって全部フランス語では?相当フランスかぶれだったんでしょうね。それで、今回上演されたのはパリ版です。

 開幕は午後8時。イタリアの劇場の開演時刻なんていい加減だと思うでしょうが、どっこい、けっこう正確です。この日も殆ど定刻に劇場内が暗くなり、無音の中、指揮者もまだオーケストラボックスに現れないうちに幕が上がると、なんとオケはステージ上にいます!そして、座ったまま指揮棒を振り序曲に入るマリオッティ。「あれ、これ、演奏会形式だったのかな?」と思って、自分の不注意さに冷や汗かいていると、驚いたことにオケと指揮者が乗った床がどんどんせり上がり、二重舞台になったのです。歌手、合唱はオケを持ち上げている柱の間の1階で歌い始めます。舞台は1階になったり、2階になったり、更に奈落に沈んで行って、ほとんど見えない状態になったりして、あたかも天国から音が降ってくるように聞こえたり(この時、アモーレ、愛の神は2階のオケの脇で膝を組んで歌うので、効果抜群!)、あるいは地の底から響いてくるように聞こえたりします。これは演出上は、最大の効果を出しているのですが、特に地下に潜ってしまった時は、音響はやや悪くなってしまっていました。しかし、とにかく発送が新しい!インパクトがある!興奮してきた!

 指揮のミケーレ・マリオッティは今年39歳、31歳のバッティストーニ、35歳のルスティオーニと並んで、イタリアの若手三羽ガラスと呼ばれています。マリオッティとバッティストーニの指揮のスタイルは、正反対と言っても良いでしょう。穏やかで理論的なマリオッティと、激しく感情的なバッティストーニ…..と簡単に決めつけてはいけませんが、ちょっとそんな感じがあります。この日のマリオッティも、グルックの楽譜をなぞるように、抑制を効かせながら、音を美しく響かせることに集中していました。歌手はすべて指揮者の下か前か上で歌うので、全く姿は見えないのに、破綻はこれほどもありませんでした。現代楽器を古楽的に鳴らしているのですが、これみよがしに音を短くすることなく、自然体です。序曲からして、バロック的に弦の高い音がオケを引っ張ることがありません。調和が取れて、音楽が丸い塊になっているようなんです。大きなオケなのですが、室内楽のように聞こえます。「精霊たちの踊り」の音楽の美しいこと。後で述べますがバレエとの調和も素晴らしかったです。

 そして、なんと言ってもオルフェオを歌った、ディエゴ・フローレス。日本には来ない(現状では)ので、外に聴きに行くしかないこの歌手、やはりすごい。METでデセイと“連隊の娘”のトニオを歌っていた頃にくらべると、声はだいぶ重くなり、芯が出来ています。熟成されたという感じで、このオペラにぴったりです。海外の批評家が、「ポルシェの6気筒対抗エンジンのような」と評したのは、この批評家がポルシェ特に好きだったからでしょうが、なんか言いたいことわかりますね。メカニカル的に、全く滞りが無い美しい声。「この世のものとは思えない美声」というのは、今の彼の声でしょう。ホフマン物語も最近歌っていますし、マントヴァ公やアルフレードも歌いますね。この2月にはフランス国家功労勲章を受賞しましたから、フランス物にはこれからも力が入るでしょう。昔の軽かった声も素敵でしたが、今のほうが魅力あるなぁ。「エウリディーチェを失って」は、今まで聴いたどの歌手のものより蠱惑的でした。ちなみに、この曲はソプラノ、メゾソプラノ、カウンターテノール、バリトンでも歌われる珍しい曲です。グルックは「オペラの改革者」と言われるだけあって、過剰な装飾歌唱を廃していますが、それでもフローレスの喉から出る微妙なアジリタは心をふるわせます。エウリディーチェを歌ったクリスティアーネ・カルク。フローレスに比較されると分が悪いですが、“ペレアスとメリザンド”で名を上げただけあって、実に締まった良い声を聴かせてくれました。アムール役のソプラノ、ファトマ・セド(Fatma Said)は、カイロ生まれの20代、スカラのアカデミアを出て2016年に魔笛のパミーナでデビューしたばかりですが、他の二人よりも情感を出した歌唱と演技でまさに「愛の神」に適役でした。

 しかし、なんと言っても、このオペラの特色は、演出したホフェッシュ・シェクターによるバレエとオペラの統合でしょう。シェクターはイギリスで活躍するバレエ振付家で、ロイヤルバレエではマクミランやバランシンの作品と一緒に上演されるほどの人気です。今回の演目もROHとの共同演出になっています。シェクター自身が持つバレエカンパニーが、このオペラの一幕から三幕まで、歌手や合唱の前や後ろになり、時にはオケの後ろにもまわり、精霊の役をして踊りまくります。勅使河原三郎っぽい重心の低い現代バレエと言ったら感じが伝わるでしょうか?とにかくオペラとの一体感が半端ないです。バレエに重点を置いた演出というのは、ちょうど今、LAオペラで上演されている“オルフェオとエウリディーチェ”でも、なんとノイマイヤーが演出と振り付けを担当しているのです。こちらは、ややクラシックな「高い重心」のバレエのようです。見たいですね。バレエに重点を置いた“オルフェオとエウリディーチェ”は、今のちょっとした流行でしょうか?バレエが大好きな僕としては、この新しい芸術とも言える表現は感動ものでしたが、そうではない観客にはバレエがややtoo muchだったかもしれません。

 三幕で休憩1回を入れて2時間40分ほどで終わるこのオペラ。ここ数年で最も僕の脳にインパクトを与えて刺激してくれました。Viva Scala!!

          下はオケが2階になった2重舞台のステージ、フローレスのカーテンコール
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Conductor Michele Mariotti
Staging Hofesh Shechter and John Fulljames
Choreography Hofesh Shechter
Sets and costumes Conor Murphy
Lights Lee Curran
revived by Andrea Giretti

CAST
Orphée Juan Diego Flórez
Euridice Christiane Karg
L'Amour Fatma Said

オペラ座でオネーギン

 久しぶりにパリに行ってきました。オーレリ・デュポンのアデュー公演、ガッティのマクベス、トラヴィアータの墓参りをした3年前の5月以来。あの時は5月にしても暖かかったのですが、今回は大寒波!いきなりマイナス6度で雪のパリです!! 幸いなことは、全く積もってはいなかったので、交通機関は大丈夫だったことです。今回の旅行の本当の目当ては、ミラノスカラ座での“オルフェオとエウリディーチェ”と“シモン・ボッカネグラ”だったのですが、同じ週にパリで“オネーギン”をやっているので、見逃せないと思いチケット取りました。オペラ座の演目の中では、“椿姫”とこの“オネーギン”はオペラにもなっているので、とても興味を持って見ることが出来ます。

 しかし、オペラとは違って、バレエの場合、寸前までキャストが発表されないので、今回も当日(2/26)の朝、チケットオフィスで確認。下記がわかりました。

オネーギン:オードリック・ベザール(プルミエール・ダンスーズ)
タチアナ:ドロテ・ジルベール(エトワール)
レンスキ:ジェレミー=ルー・ケール(スジェ)
オルガ:・ミュリエル・ズスペルギー(プルミエール・ダンスーズ)

 ドロテ・ジルベールはスジェからプルミエール・ダンスーズに昇格した10年ほど前から追っかけているダンサーなので、彼女が出るのはとてもラッキーで、「やったぁ!」という感じでした。オードリック・ベザールは後で調べて解りましたが、去年のオペラ座の来日公演“エトワール・ガラ”で『クローサー』と『三人姉妹』を踊っていました。190センチを超える長身、長くて細い手足、割と“濃い”顔立ちのイケメンです。あとの二人は初めて見ます。

 オペラ座のオネーギンは“エフゲニー・オネーギン”の頭文字 “E・O”の飾り文字をあしらった紗幕で始まります。格調高いです。ジョン・クランコの晩年(1965)の振り付けは、優雅という言葉がバレエになったとしか言いようがありません。ドロテ・ジルベールはこの10年で本当に“立派”になりました。昔は、本当に“可愛らしい”という感じだったのですが、今は体つきも引き締まって、エトワールとしての貫禄が感じられます。デュポンやアルビッソンは、年齢でそんなに雰囲気が変わった感じはありませんが、ドロテは違います。ですので、この日のタチアナも後半、侯爵夫人としてオネーギンと再会する時のほうが、ドロテの今の魅力が良く出ています。体の動きの緩急にメリハリがあり、あきらかに舞台を支配する力があります。この風格あるタチアナに、ブザールも頑張ってひけを取っていないのが素晴らしい。この人脚のすねの部分が本当に細くて長い。歩くのや駆けるのがものすごく綺麗です。ですので、最後の寝室のパドッドゥで部屋から駆けだして(追い出されて)行くところが、目に焼き付きます。僕は、この場面、ルグリで何度も見ています。特にルグリとルディエールの素晴らしい演技は忘れられません。でも、この二人もその伝統をきっちり受け継いでいました。

 それに比べて、レンスキのジェレミー=ルー・ケールはちょっと物足りない。何か締まらない感じでしたね。スジェとプルミエールの差はけっこう大きいという感じがしました。1幕目の群舞は素敵でしたね。ボリショイのような正確さには欠けるかもしれませんが、パーティの場の雰囲気を充分に醸し出しています。

 このクランコの演出、もともとはオペラの音楽で振り付けようとしたとのことで、とてもオペラっぽいです。METでのカーセンの演出の“エフゲニー・オネーギン”やマイリンスキーのステパニュクの演出も、舞台作りが似ています。

 それにしても、オペラ座の豪華なロビー、緋色で座り心地の良い椅子、シャガールの天井画というものを体験して見るバレエは、他で見るバレエとは全く別の体験です。堪能しました。

 別の話ですが、今年、エトワールのエルヴェ・モローが引退です。引退公演は5月の予定で、演目も「ロミオとジュリエット」に決まっているのですが、まだ本人の出演が決まっていません。というか半ば絶望的。怪我につぐ怪我でここ数年まともに踊れていません。デュポンのアデュー公演でも結局ボッレにその相手役を譲ったんです。今回ももし5月に踊るなら、既に引退して芸術監督に就任しているデュポンが相手を務めるという噂もあったのです。僕も家内もモローの大ファン。この日バックオフィスのインフォメーションのお姉さんに家内がモローの現状を聞いていましたが、どうも駄目なようです。残念ですね。こうなると、2014年に日本でデュポンと踊った「椿姫」は奇跡のようだったんですね。

 ともあれ、雪の降るパリで、素晴らしいオネーギンを見られて幸せでした。さて、ミラノに向かいますが、向こうも雪のようです。

 
 


パーヴォ・ヤルヴィと樫本大進オールフランスプログラム

 珍しく、N響の定期公演へ行きました。と言っても2月16日のことなので、ずいぶん経ってしまったのですが……

 オールフランスプログラムという内容。目当てはもちろん、ここ数年、とても良く聴いている樫本大進のサン・サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番!ヴァイオリン協奏曲の定番とも言える美しい旋律を持った作品ですが、樫本のは、この聴き慣れた曲を、まるで初めて聴く曲のように新鮮に響かせます。曲の「精神」がそのまま雫のように音になる感じは、彼ならでは。本当に魅せられてしまいます。ただ、いつも聴いている東フィルに比べると、オケの弦の音がやや粗い感じがしました。2階のL前方、S席だったので、東フィルの定席の前から6列目とは響きも違うのですが、それだけではない、何かオケが樫本をバックアップしていない感じがしました。一昨年、ヤルヴィがカンマーフィルハーモニーを率いて、樫本大進とベートーヴェンを横浜で演奏した時のオケとの一体感には、かなわないという感じでした。

 1曲目のデュリフレの3つの舞曲は、初めて聴きました。1927年の作曲と聞いて、現代音楽かと思ったのですが、実際は印象派の音色でした。ドビュッシーの影響も感じられますが、実に美しい、清らかな旋律。キース・ジャレットのピアノのイメージがしました。バレエ音楽ですから、これに振り付けを付けたものを見たいなぁ。

 フォーレのレクイエム、久しぶりに聴きました。好きです。ヴェルディのレクイエムも良いけれど、自分の葬式にはフォーレかモーツァルトのレクイエムにしてほしいものです。ヴェルレクでは、ちょっと間違うと地獄へ落ちそうです。

 ヤルヴィの指揮はとても良く、オケも粗さが目立たなかったのだけど、合唱が新国立などに比べて清涼感に欠けました。同じく、市原愛と、開演前に体調不良で降板したバリトンのシュエンに代わって出た甲斐栄次郎もやや物足りなかったです。二人とも少しオペラっぽい。ピエ・イェズのソプラノは、ボーイソプラのが歌うこともあるくらいなので、もっと透明感が欲しかったし、バリトンは荘厳な宗教感が欲しかったと思います。でも、充分水準以上の出来でした。

 さて、次回はオペラ座からバレエ、スカラ座からオペラ2つの報告の予定です。

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン:樫本大進
ソプラノ:市原 愛
バリトン:甲斐栄次郎

デュリュフレ/3つの舞曲 作品6

サン・サーンス/ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 作品61
フォーレ/レクイエム 作品48

東フィル定期公演シベリウス&グリーグ

 いつもはオペラシティで聴く東京フィルハーモニー交響楽団の定期公演、この日(2月23日)はサントリーホールで聴きました。音響のせいでしょうか、楽器の配置が大きく違っていておもしろかったです。1階10列目、真ん中の良席でした。

 この日は、オール北欧プログラム。なかでもグリーグのピアノ協奏曲イ短調を日本の若手ピアニストの先鋒、牛田智大が弾くのが目玉。彼のピアノは、とても柔らかく、けれん味がなく、プレトニョフの心地よく抑制された指揮とぴったり合いました。第一楽章があまりにも有名ですが、僕は第2楽章の洗練された北欧の家具のようで、白樺の林に吹く風のようなさわやかな旋律が大好きです。彼のピアノは叙情的になりすぎず、しかし曲の風景をホールいっぱいに描き出すような筆のタッチがあります。

 ただ、最近の若手ピアニスト、ちょっと神経質な反田恭平や、明るく華やかなチョ・ソンジンなどに比べると、自己主張が弱い感じがします。このグリーグ、もっとオケを引っ張るような強さが欲しかったというのが実感。世界に羽ばたいていくには、もう少しアグレッシブでも良いかと思います。

 この日圧巻だったのは、シベリウスの交響曲第7番。シベリウスの番号交響曲で最後のものですが、(第8番は破棄されて、スケッチだけが残っているようです。)楽章はひとつだけ。交響詩と呼んでもよさそうなもの。フィンランディアやタピオラに近い構成の曲です。フルートが重要な役割を持ち、複雑なメロディーの中心になったり、装飾音になったりして、曲全体の透明感を強くしています。プレトニョフの指揮は、最初のティンパニから弦の、地底から響いてくるような導入部分が、やややりすぎという感じがありましたが、以降は、曲としての塊感を強く保ち、緻密な結晶のような音を聴かせてくれて、とても満足でした。

 それに比べて、この日のコンサートの最初の交響詩「フィンランディア」は、音作りがちょっと疑問でした。大変遅いテンポだったのは、まあ良いとして、全体に音がばらけて、盛り上がるところにが、塊感がないのに、ボリュームだけ上がってしまい、雑な感じが否めませんでした。プレトニョフらしくなかったです。彼には、もっとコンパクトで内省的な、オラモのような指揮を期待していただけに残念。そして、それが第7番では出来ていたのが不思議でした。

 このブログでも何度が触れましたが、僕の好きなシベリウスは、現在ストックホルム王立フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者のサカリ・オラモというフィンランド人の指揮のもの。ハンヌ・リントゥの前にフィンランド放送交響楽団の首席指揮者も務めていましたが、日本ではあまり知られていません。彼の静かな、口数の少ない、内省的なシベリウスは素晴らしいです。僕の持っているオラモのシベリウス交響曲全集、今では廃盤で\20,000-近いプレミアムが付いていますが、別々に集めると安く買えます。是非お試しください。

アンコールのシベリウスのポルカ!初めて聴きましたが、とてもキュートで素敵でした。

 最近、北欧に行きたくなってきました。もちろん、フィンランドでシベリウスを聴きたいのですが、リントゥのはあまり……やはりオラモで聴きたいので、スウェーデンに行かないと行けませんね。。

指揮:ミハイル・プレトニョフ
ピアノ:牛田智大*
ソロアンコール:シベリウス/『もみの木』
シベリウス/交響詩『フィンランディア』
グリーグ/ピアノ協奏曲*
シベリウス/組曲『ペレアスとメリザンド』
シベリウス/交響曲第7番
アンコール:シベリウス『ポルカ』

ガラ公演、ジョン・ノイマイヤーの世界

 先週の「椿姫」に続いて、ハンブルグ・バレエ団のガラ公演に行ってきました。毎年、2月、3月、そして8月はバレエの観劇が多いんです。

このガラ公演は、普通のガラ公演、つまり、パドドゥを連ねて華やかに踊るというのとは、大分違っていました。ノイマイヤー自身がステージに現れて、自身とダンスとのかかわりを観客に向かって話し、自身の歴史を振り返りながら、ひとつひとつの演目を紹介していくという趣向です。最初の「キャンディード序曲」はこのような言葉で始まりました。(英語、字幕付き)

「ダンスが何であるかを知る前から、私もいつも踊りたがる子供だった。レコードをかけるとリビング・ルームが広いステージになり、レーナード・バーンスタインの“キャンディード序曲”を聴きながら、記憶の中の私はひたすら踊った。」

このキャンディード序曲は群舞のパートが多く、日本人の有井舞耀と菅井円加が素晴らしい踊りを見せました。

そのあと、「アイ・ガット・リズム」「くるみ割り人形」「ヴェニスに死す」「ペール・ギュント」「マタイ受難曲」「クリスマス・オラトリオⅠ-Ⅳ」「ニジンスキー」「ハムレット」「椿姫」「作品100─モーリスのために」「マーラー交響曲第3番」、と続きました。プリンシパルのシルヴィア・アッツォーニ、カーステン・ユング、ゲスト・アーティストのアリーナ・コジョカル(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)らの踊りも素晴らしいのですが、僕が特に感銘を受けたのは、やはり群舞です。特に「マタイ受難曲」(英語ではSt. Matthew Passionって言うんですね。随分イメージ違います)「クリスマス・オラトリオ」そして最後の「マーラー交響曲第3番」は本当に素晴らしかったです。僕のバレエ友達(?)のTさんが教えてくれたのですが、ノイマイヤーはこういう大きな曲に振り付けをしたダンスを、“シンフォニック・バレエ”と呼んでいるそうです。なるほど!という感じ。このカンパニーのダンサーは本当に基礎的な技術から高度な技術まで、誰もがとても高いレベルなので、群舞になっても、主役級だけが光るということがないのです。

 そして、ノイマイヤーの魅力はその振り付けが、彼自身が「愛の表現」というように、人間の感性を、見事にダンスの中の手、脚の動き、そして表情に出し尽くしていることでしょう。「あ、こういう表現があるんだ!」と、見ていてとても納得するのです。論理的な動きでもあると思います。

 今回の公演は、もちろん録音で踊られたのですが、マーラーの3番なんかは、オーケストラでやってくれたら、もうたまらない!という感じです。6月にはハンブルグでバレエのフェスティバルもあるそうです。今回の演目のうち、日本で今週末に公演のある「ニジンスキー」以外にに全幕で踊られるものもあるのでしょうか?僕はオペラでしか当地で観劇したことはありませんが、バレエも見に行きたいものです。

東フィル、ジュピター&幻想交響曲

 だいぶ前になってしまったのですが、1月24日、オペラシティでの東京フィルハーモニー定期演奏会での、チョン・ミョンフン指揮のモーツァルト交響曲第41番「ジュピター」とベルリオーズ「幻想交響曲」の感想です。

亡くなった僕の父は、モーツァルトが好きで、交響曲ではこの「ジュピター」がお気に入りだったようです。ですので、僕も小さい頃から家ではこの曲が流れることが良くあったのを覚えています。この日のミョンフンの「ジュピター」は、実に豊穣感があり、ゆったりとした大きな音楽でした。観客を包み込むようなミョンフン独特のものでした。ただ、僕の好みからすると、少し大らか過ぎるような気がしました。僕はもう少し古典的な音のほうが好みです。ただ、これは僕が最近の古楽的演奏傾向に慣れてしまっているせいもあるかもしれません。ともあれ、この日のジュピターは、これはこれで、実に気持ちの良いものでした。

 休憩後の、「幻想交響曲」はミョンフンの得意の演目、繊細さを保ちながらも劇的な音の体験を与えてくれるものでした。しかし、どちらかというと、この日の2つの楽曲では、こちらのほうが古典的か??

東フィルは、ミョンフン、プレトニョフ、バッティストーニという性格の全く違う指揮者のもとで、どんどんと成長しているように思えます。来期は、定期公演にオペラも入れて、挑戦的なプログラムで会員を魅了してくれます。

• モーツァルト/交響曲第41番 ハ長調K.551『ジュピター』
• ベルリオーズ/幻想交響曲 op.14

バレエ“椿姫” by ジョン・ノイマイヤー

 1月は、ブログをすっかりサボってしまいました。と言うよりも、1月は観劇が1回しかなかったんです。東フィルの定期公演、ミョンフン指揮のジュピターと幻想交響曲でした。これは、また後でアップします。お正月に、すっかり「ものを書く」という作業から遠ざかってしまい、そのままずるずるとお休みになってしまいました。

 さて、2月の観劇予定は、海外も入れて6回もあります。そのうち3回がバレエです。今月はしっかり書きます! でもって、最初の公演が2月3日土曜日のマチネ@文化会館、ハンブルグバレエ来日公演の「椿姫」でした。期待した以上に素晴らしかったです。バレエの椿姫は、「黒のパドドゥ」は何回も見ていますが、全幕で見たのは2014年のパリオペラ座来日公演での、デュポンとモローでの舞台だけです。この公演は、僕の見たバレエ公演の中でも1−2を争う素晴らしいものでした。(もうひとつ挙げるとしたら、やはりデュポンのアデュー公演の「マノン」です。)この時は、二人の踊りに目を奪われてしまい、演目全体の構成を見る余裕がなかったのですが、今回は落ち着いて見ることができました。

 感動したのは、ノイマイヤーが作った筋立てです。原作の「椿姫」の序章で、著者のデュマ・フィス(椿姫のモデルになった、実在のアルフォンシーヌ・プレシ(商売名:マリー・デュプレシ)の愛人でもありました。)が、マルグリット・ゴーチェ(これが原作での椿姫の名前、オペラではヴィオレッタ・ヴァレリー)の遺品のオークションで、彼女の恋人アルマン・デュヴァル(オペラでは、アフルレード・ジェルモン)から贈られたアベ・プレヴォーの小説「マノン・レスコー」の装丁本を100フランという大金で競り落とすところから始まるのです。ノイマイヤーはバレエの初めにこのシーンをそのまま舞台に持ち込み、そして「マノン・レスコー」の本の中の世界を、マノンとデ・グリューを幻影のように踊らせてマルグリットを最後の幕まで苛むという筋立てに仕上げ、それをすべてショパンの曲にぴったりとあわせました。ノイマイヤーの能力の高さ(天才ですね!)をあらわしていると思います。このバレエは、ヴェルディの「椿姫」より、ずっと原作に近いのです。ノイマイヤーは「ヴェルディがこの心打たれる状況(黒のパドドゥの場面)に曲をつけなかったことは、わたしにはまったく理解できないことです。」と言っていますが、これはヴェルディの落ち度というよりは、オペラの「椿姫」の台本作家のマリア・ピアーヴェに力がなかったからだと思います。ノイマイヤーとピアーヴェは原作に対して同じ立場にいるわけで、その能力の差がはっきりと出ています。余談ですが、ヴェルディもこれに気づいていたようで、椿姫の後は、主要作品としては「運命の力」と「マクベス」だけはピアーヴェに任せたものの、その後の後期作品は、ボイートとギズランツォーニに書かせています。

 さて、本題に戻りますが、マルグリットを踊ったラトビア出身のアンナ・ラウデールは、基本動作が見事なまでに美しい。彼女のポワントほど美しいポワントを見た事がありません。つま先から膝までで感情を表現します。ショパンのバラード第一番で踊られる、前述の「黒のパドドゥ」の場面では、二人が最後の愛を確かめるのを、情熱の炎を押さえ込むように表現していました。オレリー・デュポンとエルヴェ・モローが舞台の空気を押して動かして陽炎のような流れを作る踊りだとしたら、ラウデールとアルマン役のエドウィン・レヴァツォフは、舞台の空気を切り裂くような踊りだと思いました。後者のほうがもちろんノイマイヤーの精神をより忠実に体現していると言えましょう。ただ、アルマンについては、レヴァツォフは、まさに若く愛に苦しむ役にはまり込んでいて適役だと思いましたが、モローのような「色気」がありませんでした。比較してもしかたないことですが、やはりオペラ座の手にかかったノイマイヤーも凄いものです。

 ノイマイヤーの舞台を見ていると、幕を追って、美しい建築が出来上がっていくようなそんな感じがします。プレルジョカージュやキリアンの白昼夢を見ているような舞台と違う実存感があります。ですので、パドドゥだけ見るよりは全幕もので見たほうがその建築の実存感をきちんと受け止められて、満足感も強いのだと思います。舞台の最後に78歳になるノイマイヤーが舞台中央に出て来ました。かっこいい!!!

 7日の水曜日はガラ公演、「ノイマイヤーの世界」です。楽しみです。

◆主な配役◆
マルグリット・ゴーティエ:アンナ・ラウデール
アルマン・デュヴァル:エドウィン・レヴァツォフ
ムッシュー・デュヴァル(アルマンの父):イヴァン・ウルバン

マノン・レスコー:カロリーナ・アグエロ
デ・グリュー:アレクサンドル・リアブコ

プリュダンス:パトリシア・フリッツァ
ガストン・リュー:マティアス・オベルリン
オランプ:リン・シュエ
公爵:グレーム・フルマン
伯爵N:マリア・フーゲット
ナニーヌ(マルグリットの侍女):ジョージナ・ヒルズ

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:マルクス・レーティネン
ピアノ:ミハル・ビアルク、オンドレイ・ルドチェンコ


あけましておめでとうございます。

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。本年も、よろしくお願いを致します。

1月も半ばなんですが、まだオペラもバレエもコンサートも行ってないんです。いつもは、サントリーホールでの新春コンサートに行くのですが、今年は、何故かチケット取り逃してしまいました。1月は東フィルのミョンフン指揮のジュピターだけです。その代わり2月は、オペラ、バレエ、コンサートで7演目観劇の予定があります。

さて、それはそうと、新国立劇場のオペラ新芸術監督の大野和士さんが、2018-2019年の演目を発表しましたね。

新制作の演出が4つもあって、意欲的! 個人的には、大野さん、リヨンにいたのですから、フランスオペラがひとつ欲しかったというところです。

詳しくは下記サイトをご覧下さい。

http://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_011679.html

2018年前半の観劇予定

今年もついに大晦日。大掃除、年賀状投函などの用もすべて終わり、今日は、愛用のMacBook 12インチを、新しい外付けのモニタにつないだり、新しいOS(High Sierra)にアップデートしたりしています。

今年は40数公演に行きましたが、来年も多分そんなペースになるでしょう。2018年前半で、今のところ行くつもりの公演は下記の通り。1月の「ナヴァラの娘」だけ、都合が付くかわからないので、チケットを取っていませんが、あとは取りました。ちょっと苦労したのが、3月のミラノスカラ座での2公演、「オルフェオとエフリディーチェ」と「シモン・ボッカネグラ」でした。特にオルフェオのほうは、フローレスが歌い、マリオッティが指揮をするということで、ネットではあっという間に売り切れることが予想され、日本時間の午後8時過ぎにつながった時点で2/3くらいは売り切れていましたが、なんとか席を確保。その翌日の公演のシモンもけっこうな人気。ヌッチ、サルトリ、ベロセルスキー、そして、この役でデビューだと思います、ストヤノヴァのアメーリア。で、指揮がミョンフン!シモン好きの僕としては、今から興奮してしまいます。ただ、2月のミラノ、パリは寒いでしょうね。

3月は良い公演が目白押し。7公演もチケット取ってしまいました。バッティストーニと小曽根真の競演というのも楽しみですね。東フィルの会員も4年目にはいり、自分の「居場所」という感じがしてきました。新国立では、「フィデリオ」が楽しみです。実は、これ生で見た事がないのです。そして、6月のイタリアバーリ歌劇場の“イル・トロヴァトーレ”。フリットリとメーリ!という素晴らしい組み合わせ。降板がないことを祈るばかりです。

ということで、来年が楽しみです。今年は、この素人ブログをお読み頂き有り難うございました。来年も、どうぞよろしくお願いを致します。

1月 東フィル、ミョンフン指揮 “ジュピター他” オペラシティ
ナヴァラの娘、道化師(藤原歌劇団) 文化会館

2月 ハンブルグバレエ椿姫 文化会館
ハンブルグガラ公演 文化会館
樫本大進、パーヴォ・ヤルヴィ(サンサーンス) NHKホール
東フィル、プレトニョフ指揮、シベリウス他 オペラシティ

3月 オネーギン(バレエ) オペラ座
オルフェオとエウリディーチェ スカラ座
シモン・ボッカネグラ スカラ座
東フィル、バッティストーニ、小曽根真 オペラシティ
ホフマン物語 新国立
コルチャックリサイタル オペラシティ
ノルマ オーチャード

4月 アイーダ 新国立

5月 アルチーナ 二期会

6月 フィデリオ 新国立
イル・トロヴァトーレ(バーリ歌劇場、フリットリ) 東京文化会館

2017年私的観劇ベスト10

さて、今年も残すところあと僅か。2017年の個人的観劇ベスト10をまとめてみました。今年は上位2つの演目が海外の公演になりました。

1位 ばらの騎士     ウィーン歌劇場 
2位 ナブッコ     LAオペラ 
3位 ワルキューレ第1幕 ペトレンコ指揮バイエルン国立管弦楽団
4位 バレエ“ボレロ”     オーレリ・デュポン
5位 ラ・トラヴィアータ     チャンパ指揮マッシモ歌劇場
6位 ノルマ     日生劇場
7位 真珠採り     LAオペラ
8位 バレエ“ラ・シルフィード” パリオペラ座 
9位 ルチア     新国立劇場
10位セビリアの理髪師     石川県立音楽堂 ミンコフスキ指揮
番外 ポッペアの戴冠     バッハコレギウムジャパン

1位は、5月にウィーン歌劇場で聴いた「ばらの騎士」。これは今までに聴いた「ばら騎士」の中でも、飛び抜けて良かった。まさに最高の出来でした。オットーシェンクの演出とクラシックな舞台美術が美しい、指揮のサッシャ・ゲッツェルがウィーンフィルハーモニーから紡ぎ出す、優雅な音楽、そして何より、オクタヴィアンを歌ったソフィー・コッシュに完全にやられました。今思い出しても震えが来るほど素晴らしかったです。

2位は、ロサンジェルス・オペラのナブッコ。ドミンゴのタイトルロールということで、“ドミンゴ節”のハイバリトンではない、“ローテノール”を期待(覚悟?)して行ったのですが、これがどうして、枯れたナブッコを歌い上げてくれました。娘にやっつけられる哀れな父親という新境地をこの歳(76歳)になって開拓した感じですね。その娘の方のアビレガイッシのリュドミラ・モナスティルスカが、今まで聴いた中で、最高のアビレガイッシを歌ってくれました。迫力満点。演技も素晴らしい。(いじわる感満載!)マクベス夫人でも聴いたことがありますが、ドスが効いたドラマティコに近いスピントでは、今や右に出る歌手がいないと思います。そして、ドミンゴが彼女を盛り上げる方に廻って、いい味を出してくれたと思います。これならドミンゴもまだまだ聴けますね。コンロンの指揮も素晴らしかったです。

3位は、来日したペトレンコの指揮による“ワルキューレ第1幕”。メインの公演の“タンホイザー”よりもずっと良かったです。音響の悪いNHKホールが素晴らしいスピーカーボックスになったような緊張感の高まりが極みまで達した音楽。ホールが真空になったかと思いました。フォークト初めとした歌手も素晴らしく、これも今まで聴いたワルキューレの中で、最高でした。これを聴くと全幕聴きたくなりますよねー。

4位にはバレエを入れました。一昨年、パリオペラ座のバレエの芸術監督に就任したオーレリ・デュポン自身が踊ったラヴェルのボレロ。デュポンは様式感の美しいバレエを見せてくれました。振り付けのベジャールの系列のダンサー、ロマンやギエムとは全く違ったデュポンならでは気品に溢れるボレロ。最高でした。まあ、僕はデュポンには目がハートになるので、多少割り引いてお読み下さい。

5位には、来日したマッシモ歌劇場の“ラ・トラヴィアータ(椿姫)” ヌッチ、ランカトーレ、ポーリが歌い、チャンパが指揮。これで悪い訳がありません。去年はトラヴィアータを一度も聴きに行けませんでしたが、今年はフェニーチェ、新国立も合わせて3回、どれも素晴らしい公演でした。ヌッチの歌うヴェルディ作品の中では、ジェルモンはやや癖が強くて、それほど好きなほうではないのですが、76歳、ドミンゴ同様にアクが抜けてきてうろたえ気味の父親感が良かったですね。特に1幕目2場後半。

6位は、日生劇場でのマリエッラ・デヴィーアの“ノルマ”、あまりに良かったので、2回行きましたが、2回目の7月4日の回が最高でした。60歳を過ぎてから歌いはじめたデヴィーアのノルマは鬼気迫るものがありました。Brava!

7位には、ロサンジェルスオペラの“真珠採り”、これはもっと上位でも良かったかな。僕の大好きなマチャイゼのレイラが素晴らしかったです。彼女のフランスもの(タイスも聴きましたが)はいいですね。真鍮の輝きのある中音が素晴らしい。今、フランスオペラを歌ったら最高のソプラノかも。演出もMETで成功したウールコックのものをそのまま使っています。壮大なエンターテイメント!

8位は、またバレエが入りました。4位のデュポンが2月に来日、その1ヶ月後にはデュポンが監督となって、オペラ座が来日。クラシックな振り付けで、どちらかというと地味な演目の“ラ・シルフィード”でしたが、これがオペラ座の手にかかると本当に素敵。ラ・シルフィードを踊ったミリアム・ウルド=ブラームと、ジェイムズ役のマチアス・エイマンの二人のエトワールが妖精のようで舞台に惹き付けられました。

9位には、新国立劇場のルチアが入りました。新国立劇場、今年もレベルの高い公演をたくさんやってくれました。特にこの3月のルチアと6月のジークフリートは良かったです。ルチアを演じたオルガ・ペレチャッコ=マリオッティのナチュラルなベルカント、また聴きたいです。

10位には、石川県立音楽堂で2月の小雪の中に開催された、“セヴィリアの理髪師”。マルク・ミンコフスキの、「今っぽくない」指揮が、実に聴き応えがありました。金沢まで脚を伸ばした価値がありました。

番外には、バッハコレギウムジャパンの“ポッペアの戴冠”。これも地味な演目ですが、演奏会形式とは思えないような演出付き(金沢のセヴィリアもそうでした)で、4時間の長丁場、まったく飽きませんでした。バロックオペラ、もっと日本でもやってほしいです。

今年、行った公演は海外5公演、日本が37公演。もっと行きたいと思うのですが、なかなか仕事の兼ね合い、体力との兼ね合い、あとはチケット代との兼ね合いで、年間40公演くらいで良しとすることにします。次回は、来年の観劇プランをアップします。





今年は観劇終了

今年は、先週12月3日の、東京カテドラルの“ホープウィズクリスマスチャリティコンサート”で観劇が終了しました。このコンサートはブログにアップしませんでしたが、ソプラノの高橋薫子さん、メゾの向野由美子さん、テノールの樋口達哉さん、バリトンの北川辰彦さんでたっぷり2時間、クリスマスナンバーとオペラナンバーを聴かせてくれました。途中、ピアノの金井信さんのジャズメドレーもあって、楽しかったです。

本当は、12月、ジョナサン・ノットのドン・ジョヴァンニや藤原歌劇団のルチアに行こうかなと思っていたのですが、どうも師走でドタバタしていて、切符を取りませんでした。両方とも行かれた方の感想では「素晴らしかった」ということだったので、せめてルチアは行けば良かった。失敗でした。

今年は、40いくつかの公演に行きました。ちょっと少なめですが、海外に2回出られたのは良かったです。そろそろ個人的ベストテンを記そうと思いますが、ベスト公演は決まっているものの2位以下は良い公演が目白押しで迷っています。それとともに、来年の公演のチケットもどんどん取り始めています。


次回はそんなお話しをさせてください。

ポッペアの戴冠

 モンテヴェルディのバロックオペラ“ポッペアの戴冠”に、23日の祝日にオペラシティまで行ってきました。バロックオペラは、2015年にヴィヴァルディの“メッセニアの神託”を2回生で見たのと、DVDでデセイの“ジュリオ・チェーザレ”を見たくらい。

 いきなり結論ですが、“すごく”良かったです。とにかくおもしろかった。行く前に、けっこう予習をしていたのですが、あらすじが複雑で、正直良くわからなかったんです。しかし、実際公演で丁寧な字幕を目で追っていったら、話しの流れがしっかりとわかりました。現実のローマ皇帝ネロの話を土台にしているのですが、人間ドラマのドロドロとした様が、見事に美しい音楽でラップされています。とにかく、ストーリーが良く出来ています。ロマン主義のオペラの一般的なストーリーに比べても、けっこう複雑だと思うのですが、色々な要素がうまく絡み合って、不自然さがなく表わされています。

 野望を持って夫を替えて行く、ポッペア(実際の名前は、ポッパエア・サビナ)を演じるのは、森麻季。声量とアジリタにやや物足りないところはありましたが、蠱惑的な“魔性の女”を、実に品格のある声と演技で表現していました。リサイタルなどでしか聴いたことがなく、森麻季のオペラを聴くのは初めてでしたが、役になる切る力みたいなのがすごかったですね。Brava! しかし、何より素晴らしいと思ったのは、運命の神フォルトゥナと、武将オットーネに想いを寄せる侍女のドゥルジッラの二役を歌った、森谷真理。明るく輝く声に、装飾歌唱を美しく取り入れ、オットーネに対する思いの丈を歌い上げるところ、実に素敵で感動しました。ウィーンが活躍の場らしいですが、日本でももっと歌って欲しいです。皇帝ネッローネのレイチェル・ニコルズもなかなか良かったですが、もう少し強い感情表現が欲しかったと思います。バロック・オペラでは歌唱の技術を優先させて歌うと、感情表現が付いてこないことがあるのではと思います。その点、メッセニアの神託の、ユリア・レジネヴァは凄かったですね。

 哲学者セネカ(これも実在の人物)を歌った、バスのディングル・ヤンデルもシモンみたいで、魅力的な役柄を上手に演じていました。まだまだ、知らない良い歌手がたくさんいますね!皇后オッターヴィアの波多野睦美も彼女が登場すると舞台の色が変わるような華がありました。実際、彼女のドレスは白、ポッペアは赤、ドゥルジッラは黒と、衣装の色で性格表現をしています。また、演奏会形式とは言え、田尾下哲が舞台構成をしたので、通常のオペラと同等の演出の迫力がありました。

 バッハ・コレギウム・ジャパンを指揮した鈴木優人は、モンテヴェルディの優雅で微妙な音の美しさを見事に表現していました。台詞を字幕で読んでいると、その内容に連れて、メロディラインが変化していくのが実におもしろいんです。僕の席はC席で3階の横の席でしたので、ちょうど手すりが、字幕を横切ってしまい、首を傾けての観劇となりました。休憩40分を入れての4時間5分。首が痛くなりましたが、あっという間に終わりました。バロック・オペラ、もっと日本でやってほしいですね。

鈴木優人(指揮)
森麻季(ポッペア)
レイチェル・ニコルズ(ネローネ)
クリント・ファン・デア・リンデ(オットーネ)
波多野睦美(オッターヴィア)
森谷真理(フォルトゥナ/ドゥルジッラ)
澤江衣里(ヴィルトゥ)
小林沙羅(アモーレ)
藤木大地(アルナルタ/乳母)
櫻田亮(ルカーノ)
ディングル・ヤンデル(セネカ)
加耒徹(メルクーリオ)
松井亜希(ダミジェッラ)
清水梢(パッラーデ)
谷口洋介(兵士Ⅱ)

バッハ・コレギウム・ジャパン
田尾下哲(舞台構成)

 

ディミトリー・ホロストフスキー逝去

ロシアのスーパースターバリトンの、ディミトリー・ホロストフスキー氏が55歳の若さで、22日朝ロンドンの自宅で家族に看取られながら、亡くなりました。「えー、まさか!」という感じ。2年半、脳腫瘍と闘ってきました。僕はサンフランシスコで「シモン・ボッカネグラ」を聞いたのが最後か。。。あー、残念です。ただ、ご冥福をお祈りします。合掌。

https://www.facebook.com/Hvorostovsky/

“ノルマ”METライブビューイング

 いよいよ、METライブビューイングの2017-2018シーズンが日本にもやって来ました。僕は、この「オペラを映画館で見せる」というのには、どうも抵抗があって、今まで見に行った作品は2つか3つくらいです。大きな画面で、こちらが見るところを編集で指定されてしまうというのが、我が儘な性格に合わないようです。8Kとかになれば、映画館でも双眼鏡で見られるような感じになるのでしょうけど。。。不思議と小さな画面でDVDなどで見ていると、さほど気にならないのですが。

 とは言うものの、今シーズンは「ノルマ」と「ルイーザ・ミラー」は見逃せないなと思って、先日、東劇に行ってきました。「ノルマ」の生での鑑賞回数は、さすがに少なくて、過去には、2013年のザルツブルグの公演(バルトリ)、と今年の日生劇場でのデヴィーアの公演(2回)くらいです。あ、昨年のグルベローヴァの公演も行きましたが、これは悲しい結果になったので、回数に入りませんね。

 さて、今回のMETの公演はタイトルロールのソンドラ・ラドヴァノフスキーが、まずは注目。この人も生では聴いたことがありませんが、METでは2015-2016のシーズンで、ドニゼッティの「女王三部作」をすべて歌ったという強者。そして、昨今はフランスオペラにも進出している、メゾのスター、ジョイス・ディドナート。しかも指揮者は、僕の大好きなカルロ・リッツィなので、これを見逃す手はありませんでした。

 リッツィの指揮は、現代の「ノルマ」の音のデファクト・スタンダードとも言える、ピリオド楽器っぽい、切れの良い序曲で始まります。50年代のセラフィンの指揮(カラスがタイトルロール)のような、豊穣な音とは全く違います。しかし、リッツィはベッリーニの蠱惑的な音楽を、見事に響かせます。彼は音の中に自分の感情を込めるのがとても旨い。シモン・ボッカネグラなどでも、本当に独特の「泣かせる」音を出しますね。このMETの公演、ともすれば、歌手と舞台美術に話題が行きがちですが、リッツィの指揮あっての成功だと思います。

 ただ、一幕目は、ラドヴァノフスキーもポリオーネのジョセフ・カレーヤも喉が温まっていないのか、やや音がぶら下がります。(僕の耳が悪いのかもしれませんが。。。)Casta Divaも、今ひとつ迫力に欠けました。それでも、1幕目中盤あたり、アダルジーザが出てくるところからは、素晴らしい声を聴かせてくれました。二人の女声の重唱がこのオペラの魅力の大きな部分ですが、これは大満足です。しかし、おもしろいと思うのは、原曲ではソプラノとソプラノで歌われたこの2人が、METではソプラノのノルマとメゾのアダルジーザで歌われていて、一方のザルツブルグではノルマはメゾのバルトリで、アダルジーザはソプラノのレベッカ・オルヴェーラが歌ったという、逆の配置(?)になっていることです。過去のコンビで、素晴らしいと思っているジョーン・サザーランドとマリリン・ホーンはソプラノとメゾです。やはり、現在はこれが普通で、バルトリの場合は例外と言えるかもしれません。

 アダルジーザのディドナート、とても良かったですね。コロラトゥーラの多い演目ではないのですが、ところどころ装飾歌唱をするのが、グッと来ました。この人も生で聴いたことがないんですよね。ロッシーニ聴きたいなぁ。ヨーロッパは毎年1-2回行くのですが、METはせいぜい6-7年に一回。ですので、MET中心に活躍している歌手はなかなか聴けないんです。ニューヨークは遠いし、フライトも宿も高いし、なかなか行けませんね。

 歌手の中で、やや期待はずれだったのは、ポリオーネのジョセフ・カレーヤ。良い声なんですが、なんか歌いっぱなしという感じで、陰影がありません。本人も幕間のインタビューで言っていたように、「女たらし」な役柄を意識していたようなので、意識してそういう歌い方をしているのかと思いますが、ポリオーネには彼なりに真剣で悩みもあったはず。これは、ヴェルディ協会の理事のTさんが、フェイスブックでも言っていたことですが、痛く同意しました。その点では、ザルツブルグでのジョン・オズボーンのほうがずっと良かったですね。このことを、一緒に行った家内に話すと、「二人に同じ口説き文句使ってたし、ただの女垂らしよ。」と切り捨てられました。

 演出は、5つの舞台を上下左右から出現させて、すごいスペクタクル!歌手達も素晴らしい演技力を見せているのは、映画ならではのアップで良くわかりました。

 休憩入れて3時間半の公演、あっという間に終わった感じです。ただ、やはり、正直、生のバルトリ、生のデヴィーアの公演にはかなわなかたかなぁというのが、本音です。ところで、今回のライブ・ビューイングのプログラム、\1,440ですが、内容がすごく充実しています。大きさもヨーロッパの歌劇場のプログラムのサイズ。写真も美しく、内容も読み応えあります。是非、お求め下さい。


指揮:カルロ・リッツィ
演出:デイヴィッド・マクヴィカー
出演:ソンドラ・ラドヴァノフスキー、ジョイス・ディドナート、ジョセフ・カレーヤ、マシュー・ローズ

静かなラ・トラヴィアータ(椿姫)

 このプロダクションは新国立劇場で3回目になりますが、いつもながら上質な公演でした。指揮のリカルド・フリッツァは、同じ新国立のオテロで2009年に聴いた時はあまり良い印象ではありませんでした。とにかく音が大きかった。でも、この日のトラヴィアータは、総じて「静か」なんです。そしてこの静かさに、品がある。静かなんだけど、指揮棒の先からは色々なニュアンスが流れ出てきます。緩急をつけるのも、本当に僅かなところ。特に歌唱の大事な部分で、ほんのちょっと音を延ばすところなど、歌手と綿密な打ち合わせと稽古をしたと思いますが、実に優雅な感じを醸し出して素敵でした。30分の休憩を除いて2時間25分くらいの上演時間でしたので、カット部分が殆ど無いことを考えると、割と早いテンポで進んだと思います。そのせいか、一幕目はやや歌手を引っ張りすぎている感じがあり、ルングと合唱がついて来れないところがありました。しかし、2幕以降は、このテンポと歌唱がぴったりとあって見事。ただ、インテンポな指揮に歌が合っているのではなく、緩急あっての「合い」。それも指揮者が歌手に寄り添うのでなく、指揮者が引っ張る感じで、聴いていてとても楽しくなりました。

 そして、もうひとつの「静かさ」の効果は、音楽評論家のKさんによると、フリッツアへのインタビューで、フリッツァが「1950年代趣味から脱する。」と語っていたそうですが、まさしく、それが良くわかりました。2幕目の”morro!”のところも、机をひっぱたいたりしないし、”Amami Alfredo”のところも、オケの低音をドロドロと鳴らさないで、すーっと行く。スカラ座の天井桟敷にいる高齢のオペラファンだったらブーイングかもしれませんが、とても新しい感じがして良かったです。“プロヴァンスの海と陸”のあとも、ジェルモンはアルフレードをひっぱたかないんですね。あくまでも「静か」

 このオペラは、最初に、ヴィオレッタのモデルになった、アルフォンシーヌ・プレシのモンマルトル墓地の墓碑の言葉から始まります。最後まで、ヴィオレッタの亡くなった後、彼女自身が回想するような構成ですから、こういう冷静な感じの流れのほうが、心を打ちます。ブサールの演出の3幕目では、ヴィレッタだけが紗幕の前でくっきりと舞台上に見え、アルフレード、ジェルモン、アンニーナ、グランヴィル医師達は、皆、紗幕の後ろでかすみます。これは、もう、ヴィオレッタは亡くなってしまっているのだと強く思います。いわば“シックス・センス”の世界ですね。だからこそ、最後でヴィオレッタは倒れて死んでいくのではなく、そのまま胸をはって歩き去るのです。

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2015年に筆者が墓参りに訪れた、プレシの墓


 そして、これは私のオペラ友人、先輩の見方でもありますが、全幕を通じて舞台の真ん中にあり、最後にはその紗幕を分ける位置に置かれたグランドピアノは、ヴィオレッタが実際の人生で最後まで愛した、フランツ・リストを表しているのではないかと、、これも強く思います。

 今日は、歌手へのコメントが最後になってしまいましたが、一番良かったのは、アルフレードを歌った、アントニオ・ポーリだったと思います。「反1950年代」というコンセプトの中で、それをもっとも体現していたのでは? “O mio rimoroso”の最後も無用に上げないで静かに終わります。ですから、普通なら大拍手になるこのところも、拍手はパラパラ。ヴィオレッタを歌った、イリーナ・リング。僕は多分、彼女のこのロールデビューを2007年の7月にミラノのスカラ座で、ロリン・マゼール指揮で聴いていると思いますが、その頃は軽い細い声だったのが、ずいぶん熟成された声になりました。一幕目こそ、少し調子が出ませんでしたが、全般としては素晴らしい。演技も素晴らしい。これもやりすぎにならいレベルに押さえていましたね。

 帰りに、車でジュリーニ指揮のカラス、ディ・ステファノのCDを聴きましたが、これぞ、50年代! でも、序曲はおそらくどの指揮者よりも長く、遅いテンポです。これも、悪くはないなと思いました。

 今回でトラヴィアータ、23回目の鑑賞となりました。あと、何度生で聴けるかなぁ。とにかく、好きな演目です。


指 揮:リッカルド・フリッツァ
演出・衣裳:ヴァンサン・ブサール
美 術:ヴァンサン・ルメール
照 明:グイド・レヴィ
ヴィオレッタ:イリーナ・ルング
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:ジョヴァンニ・メオーニ
フローラ:小林由佳
ガストン子爵:小原啓楼
ドゥフォール男爵:須藤慎吾
ドビニー侯爵:北川辰彦
医師グランヴィル:鹿野由之
アンニーナ:森山京子
ジュゼッペ:大木太郎
使者:佐藤勝司
フローラの召使い:山下友輔
合唱指揮:三澤洋史
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

”真珠採り” 聴き比べ

先日、LAオペラで聴いた、“真珠採り”の感想をブログにアップしましたが、以来、CDやYouTubeで”真珠採り”を聴き込んでいます。

ここに、ナディールが歌う、一番有名なアリア「耳に残るは君の歌声(ナディールのロマンス)」の色々な歌手による動画をアップしておきます。お暇な時にお聞き下さい。

1.LAオペラでナディールを歌った、ハヴィエラ・カマレナのピアノ伴奏バージョン  https://www.youtube.com/watch?v=lii_e_VSing

2.僕が一番好きな50-70年代のフランス人のナディール歌い、アラン・ヴァンゾ https://www.youtube.com/watch?v=MGmxAHVbijI

3.60年代にポップスでヒットしたポール・モーリア楽団のバージョン https://www.youtube.com/watch?v=E6XXgbfMBdE

4.感激もののアルフレード・クラウス(劇中劇のようです?)  https://www.youtube.com/watch?v=Q1rTaw3O1wI

5.これも凄い!ニコライ・ゲッダ  https://www.youtube.com/watch?v=qCImfJUFSf0

6.現役ではなかなか良いアラーニャ  https://www.youtube.com/watch?v=TQaySQQONXs

7.2014年にパルマで聴いたコルチャックのスタジオ録音、これもいいですね。https://www.youtube.com/watch?v=IeMKYMqT018

8,ドミンゴも歌っていましたが、あまりフランスっぽくないです。https://www.youtube.com/watch?v=QCake31gbs4

以上、お楽しみ下さい。

ルサルカ@日生劇場

 ルサルカを見るのは本当に久しぶり。2011年の新国立での公演以来です。今回、一番良かったのは、指揮。ともすれば凡庸な交響楽になりがちな、ドヴォルザークのオペラを厚みがあり、情感のこもった、しかしそれが過剰になりすぎず、うまくコントロールされたものに仕立てていました。山田和樹の実力を感じました。そして、読売日本交響楽団の実力も感じました。先日の新国立の「神々の黄昏」も良かったですし、こういう重みのある交響曲的なオペラ音楽、読響はうまいですね。このルサルカは一幕目の森の精が3人出てくるところは、ワーグナーの「ラインの黄金」オープニングにそっくり、そして二幕目の森番が出てくるところの「ドードドソ、ドードドソ」という感じのフレーズは、同じくワーグナーのファーフナーとファーゾルトの巨人のモチーフとうり二つ。その後もワーグナーっぽいところが多くありました。

 歌手も総じて良かったと思います。特に魔法使いのイェジババを歌った、清水華澄は際だっていました。王子の樋口達也は、ちょっと役柄には声が明るすぎる感じはありましたが、演技も含めて素晴らしかったです。

 ただ、このオペラについて、今日はあまり書く気にならないんです。それは、演出が、好みに合わなかったから。正直、退屈でした。舞台が変わらないのは、日生劇場という古い舞台であることや、コスト面を考えると仕方がないと思いますが、間奏曲の時のラジオ体操には参りました。2幕目でルサルカが30分も動かないまま立っているのも、見ていて疲れました。色々なブログではこの演出に好意的に書いているようですが、見る物が突っ込んでいって理解しようと努めると、色々と面白い解釈ができるとは思います。しかし、登場人物がほとんど真ん中の穴から上がって来るところとか、効果の目的がわからない照明など、僕には全くその「良さ」がわかりませんでした。途中からは目をつぶって、音楽と歌唱に集中しました。

 同じくらいの規模の劇場に、昭和大学付属のテアトロ・ジーリオ・ショウワがありますが、ここもコストの制限のある中で、安価ではあるけれど、素晴らしい演出をしています。演出はイタリア人のマルコ・ガンディーニと美術のイタロ・グラッシ。いくつも公演を見ていますが、実にアイデアが豊富。

 ということで、個人的にはちょっと満足感を得られない公演になりました。

指揮:山田和樹
演出:宮城 聰
ルサルカ 田崎 尚美
王子 樋口 達哉
ヴォドニク(水の精) 清水 那由太
イェジババ(魔法使い) 清水 華澄
外国の公女 腰越 満美
料理人の少年 小泉 詠子
森番 デニス・ビシュニャ
森の精1 盛田 麻央
森の精2 郷家 暁子
森の精3 金子 美香
狩人 新海 康仁
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京混声合唱団

ダムラウ@サントリーホール

 ディアナ・ダムラウと夫君のニコラ・デステの来日オペラ・アリア・コンサートにサントリーホールまで出かけました。ダムラウはライブ・ビューイングでMETのジョナサン・ミラーの“リゴレット”などでは聴いていますが、生は初めて。

 ダムラウの高音の表現力の豊かさが凄いですね。最初の、セヴィリアの理髪師の”Una voce poco fa”でも凄いと思いましたが、コンサート全体で見ると、あきらかに後半の方が良く、最後のトラヴィアータの “E strano”は絶品。これは、ミュンヘンでの、ドミンゴとの共演が素晴らしかったとさんざん友人から聞かされていたので、実に納得しました。これで、全幕聴けたら、それは本当に素晴らしいと思います。このアリア、高音を自在に美しいベルカントで聴かせておきながら、最後の一音を下げて終わったんですね。いや、洒落てますね。「洒落てる」なんて言い方は良くないのかもしれないですが、オペラ好きには受けたと思います。「清教徒」のエルヴィーラとジョルジョの二重唱も素晴らしかったです。あれだけ、高音で色彩豊かに七色の声を聴かせてくれながら、それがしっかりコントロールされていて、声を振り回している感じがこれっぽっちもしない、凄いです。

 この日は、フランスオペラで僕の大好きなアリア、グノーの「ロメオとジュリエット」から「私は夢に生きたい」とマイヤーベーアの「ディノーラ」から「影の歌」の2つのワルツが聴けました。特に「影の歌」は超絶技巧を必要とする難曲なので、めったに生で聴けません。まろやかで、しかし天国まで導いてくれそうなコロラトゥーラ。大満足でした。

 ただ、アンコールのガーシュインまで聴いてみて、思ったのは、この人はフランスオペラに向いているのかなぁという疑問でした。この5月にマイヤーベーアのオペラ・アリア集を出しているので、これを聴いてみようと思いますが、僕の好きなフランスオペラのソプラノは、もう少し中音で感情表現があって、高音はもう少し芯の通った感じがほしい。デセイ、プティポン、カラス、そして、先週聴いたマチャイゼのような感じです。このコンサートの中でヴェルディが素晴らしかったので、彼女にはイタリアオペラをもっと攻めて欲しい感じがしました。まあ、夫君がフランス人ですから、そうなるんでしょうね。

 この日、やや残念だったのは、指揮のパーヴェル・バレフ。全体に大味でフラット。なんだか開放弦を使っているかのようにしまりがないのです。ヴェルディもヴェルディらしくなかった。ワーグナーが良かったので、ドイツ系が得意なのでしょうか?

 色々と書きましたが、リサイタルとして見た場合は五つ星を差し上げたい素晴らしい公演でした。


■出演
ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)
ニコラ・テステ(バス・バリトン)
パーヴェル・バレフ(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団

■プログラム
ロッシーニ:歌劇《セビリアの理髪師》より
序曲
「今の歌声は」
「陰口はそよ風のように」

グノー:歌劇《ロメオとジュリエット》より「あぁ、私は夢に生きたい」

ヴェルディ:歌劇《ドン・カルロ》より
「ひとり寂しく眠ろう」
バレエ音楽

ベッリーニ:歌劇「カプレーティとモンテッキ」より「あぁ、幾たびか」

ベッリーニ:歌劇「清教徒」より「おお、愛する叔父さま、私の第二のお父様」


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ワーグナー:歌劇≪さまよえるオランダ人≫より 
序曲
「我が子よ、いらっしゃいをお言い」

マイヤーベーア:歌劇≪ディノーラ≫より 「軽やかな影(影の歌)

ポンキエッリ:歌劇≪ジョコンダ≫より 「彼女は死なねばならぬ」

ヴェルディ:歌劇≪椿姫≫より 「不思議だわ~あぁ、そはかの人か~花から花へ」★ *

アンコール
日本童謡:「春よ来い」
ガーシュイン:歌劇《ポーギーとベス》より「ベス、お前は俺のもの」
プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」

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